ヒトiPS細胞から分化させた肺胞上皮細胞の長期培養に成功 -様々な呼吸器疾患の研究進展へ貢献-

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後藤慎平 医学研究科特定准教授、山本佑樹 医学部附属病院医員らの研究グループは、ヒトiPS細胞から効率よくII型肺胞上皮細胞を作製し、3ヶ月以上にわたって長期培養することに成功しました。また、鈴木穣 東京大学教授、河野隆志 国立がん研究センター研究所分野長らと共同で、ヒトiPS細胞からII型肺胞上皮細胞に分化する過程を1細胞ごとの遺伝子レベルで詳細に解析し、マウスの同じ細胞と似たようなパターンを取ることを明らかにしました。

本研究成果は、2017年10月3日付けで米国の科学誌「Nature Methods」オンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、後藤特定准教授、山本医員

本研究成果により、ヒトiPS細胞からII型肺胞上皮細胞を効率よく作成して長期培養することが可能になり、その過程を1細胞レベルで解析できたことは重要な進歩と考えられます。そして、従来困難だったヒト由来II型肺胞上皮細胞を用いた薬剤の肺毒性試験が可能になり、ヒトiPS細胞を用いた分化誘導技術の応用の一例を示すこともできました。再生医療に向けては、現時点ではまだまだ多くの課題が残されており、より純度や品質の高い細胞を作成できる方法を更に開発していく必要があります。今回の成果により難治性肺疾患の病態解明や、より多くの細胞を必要とする新薬の開発といった応用研究にもヒトiPS細胞由来II型肺胞上皮細胞の有用性が期待され、私たちはこれらの技術を将来の医療に役立てたいと考えています。

概要

肺胞は、体に必要な酸素を取り込み不要な二酸化炭素を排出するガス交換を行うための構造で、I型、II型の肺胞上皮細胞に覆われています。I型肺胞上皮細胞は平たくガスを通しやすい形をしており、II型肺胞上皮細胞は肺胞がつぶれるのを防ぐために活性物質(サーファクタント)を分泌し、自己を複製しながらI型肺胞上皮細胞にも分化できるという、肺における幹細胞としての重要な役割を担っています。このII型肺胞上皮細胞の異常は、慢性閉塞性肺疾患、間質性肺炎、肺がんなどの様々な難治性呼吸器疾患とも関連すると考えられていますが、II型肺胞上皮細胞は試験管内では遺伝子発現が安定せず、長期培養ができなかったため、研究の大きな制約となってきました。

本研究グループは、ヒトiPS細胞から効率良くII型肺胞上皮細胞を分化誘導する方法を開発し、オルガノイド(ミニ臓器を培養皿の上で作成したもの)を用いてヒトiPS細胞由来II型肺胞上皮細胞を3か月以上の長期間にわたって安定的に増やし続けることに成功しました。さらに、長期培養したII型肺胞上皮細胞に形態異常を引き起こすことが知られる薬剤を投与し、細胞、遺伝子レベルで異常を検出する方法を開発しました。

これらの実験結果から、ヒトiPS細胞は今まで困難だった薬剤による肺への副作用予測や将来の肺の再生医療、様々な難治性呼吸器疾患の創薬にも役立つことが期待されます。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/nmeth.4448

Yuki Yamamoto, Shimpei Gotoh, Yohei Korogi, Masahide Seki, Satoshi Konishi, Satoshi Ikeo, Naoyuki Sone, Tadao Nagasaki, Hisako Matsumoto, Shigeo Muro, Isao Ito, Toyohiro Hirai, Takashi Kohno, Yutaka Suzuki & Michiaki Mishima (2017). Long-term expansion of alveolar stem cells derived from human iPS cells in organoids. Nature Methods, 14(11), 1097-1106.

  • 読売新聞(10月5日夕刊 8面)に掲載されました。