「知恵の輪」構造で固い素材を柔らかく-CO2吸着量を光で制御する新材料-

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北川進 高等研究院物質-細胞統合システム拠点(iCeMS=アイセムス)拠点長(兼・高等研究院副院長)、佐藤弘志 東京大学講師らの研究グループは、二酸化炭素(CO 2 )の吸着を光によって制御することができる多孔性材料の開発に成功しました。

本研究成果は、2017年7月24日午後6時に英国の科学誌「Nature Communications」で公開されました。

研究者からのコメント

本研究で開発した多孔性材料は、光によって吸着現象を可逆的に制御できるという画期的な成果です。 研究開始当初に得られた多孔性材料は、いずれも光に対する反応性が低く、吸着制御の実現にはほど遠いものばかりでした。 「固い」結晶に構造的な「柔らかさ」を導入するという一工夫により、光に対する反応性を劇的に向上させたことが成功の鍵です。 光エネルギーを効率よく化学反応へと変換するプラットフォームとして発展させることを目指しています。

概要

多孔性材料とは、小さな穴が無数に空いた構造を持つ材料です。特に近年、多孔性金属錯体(PCP)というジャングルジムのような構造の多孔性材料の穴にガス分子を吸着させる技術は、CO 2 などの分離・貯蔵に有用であるとして、開発が進められてきました。しかし、多孔性材料の結晶は柔軟性がなく、ガス吸着量を変化させることが困難でした。

本研究グループは、光刺激によってPCPの穴の大きさを調整し、CO 2 吸着量を調整できる多孔性材料を新たに開発しました。

「ジアリールエテン」という有機分子は、紫外光の照射で閉環反応(閉じてリングを構成するような動き)を、可視光の照射で開環反応(リングを開くような動き)を示すことで知られています。本研究グループはこのジアリールエテンをPCPのナノ細孔の表面に導入することで、照射する光の種類によって穴の形と大きさが可逆的に変化する構造を作ることを考えました。しかし、分子が密に詰まったPCPの固い結晶中では、ジアリールエテンが反応を示すために必要な空間的ゆとりがありません。実際、従来の可動性のないPCPでは、ジアリールエテンの光反応は固体の表面で進行するのみで、細孔の構造を効率よく変化させることができませんでした。

そこで本研究グループは、ジアリールエテン誘導体(DAE:ジアリールエテンとほぼ同じ構造で同じような光反応を示す)を導入したPCPを、知恵の輪の要領で組み合わせることで、フレームワーク同士の相対的な位置が変化できるようにしました。このことにより、PCPに構造的な柔らかさが生まれ、DAEが光反応を示すための構造的余裕が生まれました。

このPCP結晶では、ほんの数分間の紫外光照射でほぼ全て(95%以上)のDAE部位が閉環反応を示しました。構造的な柔らかさのないPCPでは、何時間光照射を続けても10%から20%の光反応率であったことと比べると、劇的な上昇です。このことにより、細孔容量が変化し、CO 2 の取り込み量も30%以上減少しました。また、可視光の照射で、紫外光照射前と同じ構造に戻り、CO 2 を取り込む能力も回復しました。このような高効率な光反応に基づく吸着現象の可逆的制御は、過去に例がなく、今回のPCPが非常に特別なものであることを示しています。

図:PCPを知恵の輪のように組み合わせることで、CO 2 の吸着を可逆的に光制御できるようになる。このPCPの結晶に紫外光と可視光を当てることで、結晶の色がはっきりと変化した。このことは光反応が効率よく起こっていることを示している。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 https://doi.org/10.1038/s41467-017-00122-5

【KURENAIアクセスURL】 http://hdl.handle.net/2433/226605

Yongtai Zheng, Hiroshi Sato, Pengyan Wu, Hyung Joon Jeon, Ryotaro Matsuda & Susumu Kitagawa (2017). Flexible interlocked porous frameworks allow quantitative photoisomerization in a crystalline solid. Nature Communications, 8,100.