キノコ類の多様性の起源を解明 -植物との共生関係が生み出す多様化の歴史-

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佐藤博俊 生態学研究センター研究員(現龍谷大学博士研究員)、田辺晶史 地球環境学堂特定研究員(現水産研究・教育機構研究員)、東樹宏和 人間・環境学研究科助教らの研究グループは、「菌根性キノコ菌類」と植物の間で成立する共生関係の歴史を数千万年のスケールで解析し、陸上生態系を支える菌根性キノコ類の種多様性が増加してきた要因を明らかにしました。宿主である植物を乗り換える「宿主転換」という現象が菌根性キノコ類の種分化を加速させてきたという今回の発見は、現在みられる地球上の森林が成立してきた歴史を再現する鍵となります。

本研究成果は、2016年12月5日に英国の科学誌「New Phytologist」オンライン版に掲載されました。

研究者からのコメント

左から、東樹助教、佐藤研究員

キノコ類は、日本人にとって最も身近な食材の一つであると同時に、陸上生態系を支える重要な一員でもあります。本研究では、マツタケやホンシメジといった菌根性キノコ類は、温帯地域に広く分布するブナ科の樹種と共生をはじめたことがきっかけとなって、急速に種多様化したことを示しました。今回の研究成果は、「なぜ、森にはこんなに多様なキノコ類がいるのか?」という素朴な疑問を解明する重要な手がかりになると考えています。

概要

マツタケ・ホンシメジなど、植物とお互いを支えあって生活する菌根性キノコ類は、他の多くの生物種と違って、熱帯地域より温帯地域で高い多様性を示す傾向にあります。なぜ、菌根性キノコ類がこのような例外的な多様性のパターンを示すのかはこれまでの研究でははっきり分かっていませんでした。

そこで本研究グループは、菌根性キノコ類の一種であるオニイグチ類を用い、遺伝情報から菌根性キノコ類が多様化した起源を探ることによって、その多様性の成り立ちを調べました。

その結果、オニイグチ類は、北半球の温帯に広く分布するブナ科樹木への「宿主転換」がきっかけとなって、生育地を広げることに成功し、その後急速に多様化したことが分かってきました。そして、こういった多様化の歴史が、温帯地域に多様性のピークをもつという菌根性キノコ類の特殊な多様性のパターンを生み出した可能性が示されました。

この研究で得られた成果は、地球上で最も多様な生物群の一つである菌類の多様性の起源を解明する重要な手がかりになると期待されます。また、菌類の多様性を保全していく上でも、重要な基礎的な知見を示したと言えます。

本研究は、日本学術振興会の科学研究費(若手B, 26840128)および内閣府の「最先端・次世代研究開発支援プログラム」(GS014)の研究資金を基に実施されました。

図:オニイグチ類の分子系統樹とその進化過程で起こった宿主転換

分子系統樹の末端の色分けは現存種の共生樹種を示している。分子系統樹の円グラフは祖先種がどの樹種と共生していたかの可能性を示している。分子系統樹の横方向の長さは時間の経過を示している。

詳しい研究内容について

書誌情報

【DOI】 http://dx.doi.org/10.1111/nph.14368

Hirotoshi Sato, Akifumi S. Tanabe, Hirokazu Toju. (2016). Host shifts enhance diversification of ectomycorrhizal fungi: diversification rate analysis of the ectomycorrhizal fungal genera Strobilomyces and Afroboletus with an 80-gene phylogeny. New Phytologist.