2026年1月6日(火曜日)に開催された「総長年頭挨拶」において、湊長博 総長より本学教職員に向けて以下のメッセージが送られました。

湊長博 総長からのメッセージ

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年頭挨拶での湊総長

 新年あけましておめでとうございます。

 昨年一年を振り返ってみますと、初夏から晩秋にかけて本当に暑い日が続きました。京都では気温が35度を超える猛暑日が61日にものぼり、世界の平均気温も0.48度上がったそうです。カリフォルニアをはじめとする世界各地では大規模な山火事が発生するなど、地球温暖化が予想以上の速度で進行していることを、改めて思い知らされました。また世界では約4年前に始まったウクライナの戦乱が続く中、昨秋には、本学のウクライナ危機支援基金による第4陣となる留学生約20名を受け入れました。これで受け入れ留学生の総数は、延べ約70名になります。今年こそはこの戦乱が終結して、かの地に平和と安全が戻り、学生たちが安心して故国に戻れるようになることを願ってやみません。

 他方、本学では大変おめでたいことが続いた良い年でした。

 3月には、柏原正樹 数理解析研究所特任教授、高等研究院特定教授が、数学のノーベル賞とも言われるアーベル賞を受賞されることが決定し、5月にノルウェーでその栄誉が授けられました。10月には、北川進理事・副学長、高等研究院特別教授のノーベル化学賞受賞決定の知らせに沸き上がったところです。
 去る12月10日には、ストックホルムでノーベル賞の授賞式が挙行されました。私も出席させていただきましたが、北川先生がスウェーデンのグスタフ国王からメダルと賞状を授与されるのを目の当たりにし、大変誇らしい気持ちになりました。私自身は本庶佑 高等研究院特別教授がノーベル生理学・医学賞を受賞された2018年以来、7年ぶり2度目の授賞式でしたが、やはり格別の感動でした。海外での本学の存在感も一段と高まったように感じています。同時にノーベル生理学・医学賞を受賞された坂口志文 大阪大学特別栄誉教授も本学の卒業生であり、これで本学ゆかりのノーベル賞受賞者は13名となりました。
 これも、自由の学風のもとで独創的な研究を尊ぶ、という本学の歴史的な伝統の所産であり、この気風を次世代に引き継いでいくことが、私たちの大きなミッションであると改めて感じている次第です。

 しかし何といっても最大の動きは、国際卓越研究大学への再申請に向けて、全学的な議論と準備を進めてきたことだと思います。一昨年の春からこの議論を詰めてきて、丸一年間にわたる準備を経て、昨年の5月に研究等体制強化計画を文部科学省に提出いたしました。
 その後、夏から秋にかけて文部科学省の有識者会議(アドバイザリーボード)によるヒアリングと現地調査を受検しました。この間、多くの教職員や学生の皆さんにもご協力をいただき、非常にありがたく思っております。

 このような申請・審査を経て、昨年12月19日に文部科学大臣から、本学は国際卓越研究大学の認定候補として適当であるとの選定を受けました。アドバイザリーボードからの意見書の中で、本学の研究等体制強化計画は、「歴史や伝統のある大規模な大学として、一定の改革の困難性がある中で、今回極めて挑戦的な改革構想を掲げていることを高く評価したい」という大変ポジティブな評価をいただきました。その上で、認定候補大学として重要な確認事項について、アドバイザリーボードとの対話を踏まえながら、最長1年以内に計画を磨き上げた上で、正式な認定・認可へ移行すべきである、とされています。

 アドバイザリーボードからの確認事項は二点あり、一つ目は各デパートメントの研究力強化戦略などを検討する基となる京大ビジョン(全学計画)を策定するということ。そして二つ目は、その京大ビジョンに沿って全学におけるデパートメント制への移行を、スピード感を持って進めるということです。これらについて、新年早々から全学ベースで準備に入りたいと思っています。

 コアとなる京大ビジョンは、「自由な研究環境のもとで、社会を変革する価値とグローバルに活躍する高度人材を生み出し続け、世界から多様な研究人材が集う知の拠点を目指す」ことに集約されております。これを実現するための体制強化計画は、三つの柱からなります。

  1. 卓越した独創的な学術研究成果を生み出し続けることのできる研究体制の構築
     将来にわたり、先端的な研究から多様な学術成果を生み出し続けていくには課題もあります。そのため、研究組織体制を欧米のグローバルスタンダードな形態に変えていきたいとするのがこの一点目です。
  2. アカデミアのみならず、多様な社会でグローバルに活躍できる高度人材を輩出する教育システムの形成
     国内外の優秀な入学者を高度人材として養成し、グローバル社会へ輩出していく人材育成の仕組みを強化していきたいというのが二点目です。
  3. 大学の学術成果を社会・経済的価値につなげ、大学独自基金の拡大と学術研究への再投資のエコサイクルによる、自立的財政基盤の実現
     研究成果を社会に実装した後、社会からの信任を得ることで学術研究へ再投資するサイクルを実現していきたいというのが三点目です。

 この体制強化計画の中心となるのが、デパートメント制の導入による研究組織の改革です。これまで京都大学は、我が国を代表する研究型大学として大きな成果を上げてきましたが、昨今、教員・研究者、とりわけ次世代を担う若手教員・研究者の多くが、研究時間が不足している、研究支援や高度な研究設備の共用化などが進んでいない、あるいは独立した研究者としての自立化に障壁があるなど、現行の研究体制や研究環境に大きな困難を感じていることがアンケート結果から明らかになっています。このような状況は、独創的な学術研究をミッションとする本学の将来にとって、深刻な懸念材料であると言わざるを得ません。

 これらを抜本的に改革していくためには、大学全体が変わっていかないといけません。まずは研究組織のあり方について、明治時代以来続く閉鎖的な小講座制からオープンなデパートメント制へ転換する必要があります。研究領域、すなわち個々人がどういう領域で研究をするか、あるいはどういうミッションで研究するかに基づいて国際標準のグループを作り、協働して特定の目的のために研究するという体制に移行していくことを全学で合意してきました。 欧米ではこのグループをデパートメントと呼びますし、ヨーロッパの一部の大学、例えばボルドー大学などでも柔軟に運用されていると聞きました。従来のように、教授のもとに少人数の研究室体制を設けるのではなく、ディシプリンやミッションごとに研究者が協働する体制を作るのがデパートメント制です。研究組織をこのようなデパートメントへ変えていくことをテコとして、大学院を中心とする研究のあり方、また教育や事業財務戦略、さらには大学全体のガバナンス体制等々、全ての大学組織の改革を進めて、最終的に少なくとも四半世紀後には、真に国際的な卓越研究大学として確立することを目指していくのが、今回の体制強化計画です。

 本日は職員の方々も多く参加いただいていますが、この計画達成に重要なのが全学の業務改革です。大学の機能の多様化と複雑化に伴って、必要とされる業務も極めて多彩かつ専門的になってきており、教員、事務職員、専門職というような職種縦割りではもはや立ち行かないことは、皆さんよく理解され、日々認識されていることでしょう。
 かつて、教職というのは車の両輪であるとよく言われました。片方の車輪が教員、もう片方の車輪が職員で、異なる機能を持つ両者が相互連携し、大学を運営していくものだと考えられていたわけです。しかし、これだけでは大学の業務は必ずしも立ち行かない局面にきています。今回の体制強化計画では、全学の業務組織に対し、研究を支援する組織、教育を支援する組織、財務や事業を展開する組織など、目的や機能別に再編し、その中で教員、事務職員、専門職、URA、技術者など多様な職種の人たちがフラットに連携して、効果的に協働作業を進められる組織が望ましいと考えました。
 そのためにも人への投資を強力に進めていく必要があります。現状では人材が足りていません。必要な人員を補充し、適切に処遇して組織の効果・効率を高めていくことが重要であろうと思います。

 結びに、今年は国際卓越研究大学の認定候補として、アドバイザリーボードからの指摘に迅速に対応し、できる限り速やかに国際卓越研究大学の正式な認定、認可を受けて、体制強化計画を実行に移すということを進めていく年になります。
 ついては、新年度を待たずに速やかに京大ビジョンを明文化して全学で共有し、それに基づいてデパートメント編成の具体的な動きに入っていただきたいと思います。どういうデパートメント構成にするかは、まずは学系を中心に検討を進めることになるでしょうが、必ずしも学系とイコールである必要はありません。現在の学系のように単なる人事上の区分ではなく、研究の母体としてのデパートメントを作っていくには、相応のプランニングが求められます。各デパートメントをどういうビジョン、あるいはミッションに基づいて研究を実施していく形態にするかということを具体化する作業に入っていただきたいと思っております。

 私の総長としての年頭挨拶は、今回が最後となります。 
 これまで、理事・プロボストとして6年、総長として5年強、大学改革に努めてまいりましたが、今年こそ国際卓越研究大学へ向けて真の出発の年になることを願っております。是非そのためにも全ての教職員の皆さんが一致協力して、向こう四半世紀をかけて着実に大学の構造改革を進め、大学の自立と自由の確立のために、真摯に着実に取り組んでいただくということを心からお願いして、私からの新年のご挨拶に代えさせていただきたいと思います。

 どうぞよろしくお願いいたします。ありがとうございました。

2026年1月6日
京都大学総長
湊 長博
(2026年1月6日(火曜日)開催「総長年頭挨拶」より)