遺伝暗号の使い分けを認識する分子機構を解明―ヒト細胞における非最適コドンのセンサーを同定―

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 コドンとは、細胞がタンパク質を合成する際にどのアミノ酸を使うかを指定する、3つの塩基からなる遺伝暗号です。ヒトのタンパク質は主に20種類のアミノ酸から構成されていますが、それらを指定するコドンは全部で61種類存在します。多くの場合、1種類のアミノ酸は複数のコドンによって指定されており、これらは「同義コドン」と呼ばれます。同義コドンのどれを使っても、最終的に作られるタンパク質の種類は同じです。しかし、どの同義コドンを使うかによって、タンパク質が作られる量が大きく変わることが知られています。特に「非最適コドン」を多く含むメッセンジャーRNA(mRNA)は、タンパク質が効率よく翻訳されず、さらにmRNA自体も分解されやすくなることがわかっています。しかしヒト細胞において、このようなコドンの違いがどのように感知され、遺伝子発現が制御されるのかはわかっていませんでした。

 竹内理 医学研究科教授、吉永正憲 同助教、伊藤拓宏 理化学研究所チームディレクター(兼:同上級研究員)らの研究グループは、理化学研究所開拓研究所、東京大学工学系研究科、近畿大学薬学部、米国スタンフォード大学(Stanford University)などとの共同研究により、RNA結合タンパク質DHX29が、非最適コドンの翻訳を感知するセンサーとして働くことを明らかにしました。DHX29はタンパク質翻訳装置であるリボソームに結合し、非最適なコドンを多く含むmRNAを見分けていました。さらに、DHX29はmRNAの発現を抑制するGIGYF2・4EHPタンパク質複合体を呼び寄せることで、非最適コドンを多く含むmRNAの発現を抑えることを明らかにしました。

 これらの結果から、DHX29はコドンの使い分けを読み取り、遺伝子発現を制御する重要な因子であることが示されました。コドンを介した制御は全てのタンパク質の産生に関わるため、本研究の知見は様々な生命現象の制御機構の理解につながる鍵の一つになると期待されます。

 本研究成果は、2026年3月19日に、国際学術誌「Science」にオンライン掲載されました。

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ヒト細胞におけるDHX29を介した非最適コドンの認識と制御

研究者のコメント

「今回の研究では、その正体が不明であったヒト細胞における非最適コドンを認識する仕組みを明らかにすることができました。コドンの使い分けを介したmRNAの制御機構は、免疫システムを始め様々な生体機能に関わる事が考えられます。加えて、本機構は、近年注目されているRNA創薬の設計においても重要であり、本研究の成果は将来的に医学分野への応用にもつながると期待されます。また今後は、コドンを取り巻く分子機構が生体においてどのような役割を果たすのか、さらに明らかにしていきたいと考えています。」(吉永正憲、竹内理)