研究成果

遺伝的多様性の新しい影響を発見 -わずかな性質の違いが生態系を変化させる可能性-


2014年10月23日


     山道真人 白眉センター特定助教は、笠田実 東京大学総合文化研究科大学院生と 吉田丈人 同准教授らのグループとの共同研究により、被食者である藻類(クロレラ)とその捕食者である動物プランクトン(ワムシ)からなる人工的な生態系を実験室内に構築し、遺伝的多様性が、生態系を構成する種の個体数と進化にどのような影響を与えるかについて観測しました。その結果、遺伝的多様性のわずかな違いが、進化や個体数変化のあり方を大きく変えることで、生態系に大きな影響を与える可能性を新たに発見しました。

     本研究成果は、米国科学アカデミー紀要「PNAS」に10月20日13時(米国東部時間)に掲載されました。

    研究者からのコメント

     これまで「遺伝的多様性の質」はあまり注目されてきませんでしたが、本研究によって、遺伝的多様性の質的な違いが生態系に大きな影響を与えることがあると示されました。つまり、生態系をより深く理解するには、構成する生物種という単位だけでなく、種内に見られる遺伝的多様性を含めて生物を捉える必要があります。

     生物多様性の保全は国内外において重要な社会目標となっていますが、種の保全だけでなく種内の遺伝的多様性を保全する意義の一つが新たに明らかとなりました。また、感染症の対策や野生生物の管理において、遺伝的多様性を考慮する重要性が今まで以上に示されたと言えます。

    ポイント

    • 生物のもつ遺伝的性質のわずかな違いが進化や個体数変化のあり方を変えることで、生態系に大きな影響を与える可能性を、プランクトンを用いた実験生態系により初めて実証
    • 生物多様性の要素のうち遺伝的多様性については、その重要性を裏付ける学術的知見が乏しいが、今回の研究により遺伝的多様性のもつ新しい影響が明らかに
    • 種の保全だけでなく、種内の遺伝的多様性を保全する意義の一つが新たに明らかとなり、今まで以上に遺伝的多様性の考慮が重要となる可能性を指摘

    概要

     生物は個体ごとに異なる遺伝子を持っており、種内に遺伝的多様性があります。遺伝的多様性により、生物は素早く進化することが可能であり、生物多様性の重要な要素と考えられています。しかし、遺伝的多様性が生態系に与える影響の理解は進んでおらず、生物多様性保全の国際的な議論においても、遺伝的多様性の重要性を裏付ける学術的知見が乏しいことが課題となっています。また、感染症流行への対策や野生生物や水産資源の管理においても、遺伝的多様性のもつ影響の理解は重要ですが、十分には進んでいません。

     そこで本研究グループは、プランクトンを用いた実験生態系による室内実験と、数理モデルによる現象理解を組み合わせて実施し、その結果、遺伝的性質のわずかな違いが進化や個体数変化のあり方を大きく変えることで、生態系に大きな影響を与える可能性を新たに発見しました。

     今回の研究成果は、遺伝的多様性の重要な一面を新たに発見したものであり、国内外の生物多様性保全を裏付ける学術的知見として利用されることが期待されます。また、社会の身近な問題である感染症や生物管理の現場において、遺伝的多様性の考慮を一層強く求めることにもつながることが期待されます。


    実験生態系を構成する藻類(クロレラ)と、それを捕食する動物プランクトン(ワムシ)。この写真では、藻類はすべて同じように見えるが、重要な性質に遺伝的な違いがある。

    詳しい研究内容について

    遺伝的多様性の新しい影響を発見 -わずかな性質の違いが生態系を変化させる可能性-

    書誌情報

    [DOI] http://dx.doi.org/10.1073/pnas.1406357111

    [KURENAIアクセスURL] http://hdl.handle.net/2433/191122

    Minoru Kasada, Masato Yamamichi, and Takehito Yoshida
    "Form of an evolutionary tradeoff affects eco-evolutionary dynamics in a predator–prey system"
    PNAS, published ahead of print October 21, 2014


    遺伝的多様性の新しい影響を発見 -わずかな性質の違いが生態系を変化させる可能性-
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