医療データ・個人情報を守る「審査後」の倫理-英国UK Biobank事件の教訓と継続的ガバナンス-

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研究者情報

概要

 京都大学大学院医学研究科の井上悠輔教授とスウェーデン・ウプサラ大学のJennifer Viberg Johansson研究員は、世界最大級の医学研究基盤UK Biobankで2026年4月に発覚したデータ不正流通事件を手がかりに、これからの医療・研究に用いられる個人由来の情報・データの管理のあり方を検討しました。

 UK Biobankでは約50万人から提供された健康・遺伝情報などが医学研究に利用されていますが、研究用に提供されたデータの一部が、中国の消費者向けオンラインプラットフォームで販売目的に掲載されていたことが明らかになりました。この事件は、個人を特定しにくくする技術的な対策や、研究者を審査してデータへのアクセスを認める「入口」の対策だけでは、その後の不適切な持ち出しや再利用を十分に防げない可能性を示しています。

 本研究では、データへのアクセスを認める「入口」の審査に加え、その後の利用状況の記録・監査、安全な解析環境、問題発生時の対応、研究参加者や社会への情報公開までを継続的に管理する「continuous governance(継続的ガバナンス)」への転換を提唱しています。日本でも2026年7月に改正個人情報保護法が公布され、さらなるデータ利活用を進める制度整備が進んでいます。個人に由来する医療・健康データをより広範に活用する時代を迎えるなか、データの利用を広げることと、その後の適正な利用を継続的に確保することを、どのように両立させるかがますます重要になります。

 本研究成果は、2026年9月9日に国際学術誌「Journal of Medical Internet Research」に掲載されました。

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UK Biobank事件と医療・健康データの継続的ガバナンスへの教訓(作成:京都大学大学院医学研究科 医療倫理学)

研究者のコメント

「UK Biobankの事件が示したのは、医療・健康データの活用を進める際には、技術的な安全対策だけでなく、責任・透明性・社会的信頼まで含めて、データを「使い始めた後も責任を持って見守る」仕組みが必要だということです。日本でも、NDBなど一部の公的データベースでは、利用審査や安全な解析環境などの対策がすでに進められており、全てが「データを渡した後は研究者任せ」というわけではありません。ただ、技術的な管理だけで不適切な利用を全て防げるわけではなく、利用者がルールを守ることを前提として成り立っている部分もあります。審査を終えた後のデータ利用をどこまで把握し、適切な利用を継続的に確保するかという課題は残ります。
一方で、医療・健康データの利用先は、大学の研究者だけでなく、企業による研究開発(AI開発を含む)、国際的な共同研究などへ広がっています。2026年の個人情報保護法改正も、これらのデータの社会的な活用を進める方向を含んでいます。利用を広げる議論と同時に、利用開始後の監査、技術的な管理、問題発生時の対応、社会への説明をどのように組み合わせるのかを、日本でも改めて考える必要があります。信頼は、制度を作れば自動的に得られるものではありません。データを活用できることを当たり前と考えるのではなく、社会の理解を得ながら活用していくために、今の仕組みに何が足りないのかを考え続ける必要があります。」(井上悠輔)