ジャワ原人は現代人と同様に「未熟な」赤ちゃんを産んだ―頭骨の「歪み」からさぐるヒト的難産・育児の起源―

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概要

 東京大学総合研究博物館の海部陽介教授らによる研究グループは、「未熟な赤ちゃん」を産むヒト型出生の進化的起源に関する論文を発表しました。

 霊長類の赤ちゃんは一般に「早熟」で、首はすわり、自分の力で母親の毛皮などにしがみついて自身の身体を支えることができます。チンパンジーの新生児は比較的未熟ですが、生後短期間でこのように自立していきます。ところがヒトの赤ちゃんは、生後約4か月も首が座っていない状態が続き、自力で立って歩けるまでに約1年を要します。ヒトの赤ちゃんが長期に渡って未熟であることの説明として、これまで「生理的早産」あるいは「出産のジレンマ」という考え方が知られていました。

 これは、人類は直立二足歩行をする関係で骨盤の幅を過度に大きくできず、従って母親の産道サイズに制限が生じ、これが出産時の胎児の脳サイズを制限するというものです。脳は胎児期に急速に成長するのですが、脳が大きくなりすぎた胎児は母親の胎内から出てこられなくなります。そこで人類は進化のどこかの時点で、その大きな脳サイズに見合う本来の妊娠期間を短縮して、脳が急速に成長する胎児の状態を維持した柔らかい頭のままの未発達の赤ちゃんを出生するようになった、というのです。

 この現象により、母親と胎児の双方が「難産」というリスクをかかえるようになり、産婆のような出生時の協力行動の必要性や、未熟な赤ちゃんを守るために父親の育児参加を含む共同育児などが発達するようになったと考えられています。つまり、「生理的早産」の進化上の起源をさぐることは、こうした人間らしい一連の行動の起源をさぐることにも結びつきます。

 しかし生理的早産の起源を化石でさぐるのは容易ではありません。これまで、人類進化学者たちは、稀にしか見つからずしかも不完全な成人骨盤の化石や幼児頭骨の化石のサイズを検討するなどして、「生理的早産」の進化的起源をさぐろうとしてきました。議論が集中しているのは、ホモ・エレクトスにおいて生理的早産が生じていたかどうかですが、これらの化石の不完全さなどの制限から、見解の一致には至っていませんでした。そこで本研究では「変形性斜頭」という現象に注目した新たな方法を導入して、この課題の解決をはかることを目指しました。

 「変形性斜頭」は、ヒトの赤ちゃんの頭部に生じる歪みの1つの形態です。その主原因は、ヒトの赤ちゃんは脳が大きく頭部が重いにもかかわらず、出生時の頭骨が未発達で、かつ頸部の筋が弱く「首が座らない」状態にあるため、床に寝かされた赤ちゃんの頭部(脳が大きいため重い)が重力によって歪むことが主原因とされています。この歪みは、成長に伴い一定の改善が得られるものの、ある程度の変形は成人まで保持されることが少なくなくありません。頭骨と頸部の未熟さは生理的早産の一側面ですので、大きな歪みを示す頭骨は、生理的早産を経験していたと考えることができます。そこで私たちは、次の2つを調査することにしました。

  • 総計1500以上の大型類人猿とヒトの頭骨の歪みの程度を比較し、ヒト特有の重度の歪みの様態を把握する。
  • 原人の化石頭骨の歪みを定量し、ヒト的な「変形性斜頭」が存在するかを検討する。

 解析の結果、末期のジャワ原人2個体と、フローレス原人1個体において、ヒト的な頭骨の歪みを検出しました。これらの歪みは、埋没中に地層の圧力で生じたものとは区別され、「変形性斜頭」とみなすべきものであることを複数の根拠をあげて論じた上で、これらの原人が、すでに未熟な赤ちゃんを産むヒト的出生パターンを進化させていたと結論しました。

 この結論は、原人が、私たち現代人と同様に難産を経験し、それを軽減するため、あるいは未熟な赤ちゃんを保護するための協力行動を発達させていたことを示唆します。

 なお、本研究における乳児CTデータの利用については、国立成育医療研究センターの倫理審査委員会の承認の下に実施しました(approval number: 2021-139)。

画像
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横方向への強い歪みを示す現代人(左)とジャワ原人(右)の頭骨。どちらも後ろからみたところ。

研究者のコメント

「頭骨の歪みは『人間らしさの刻印』である、というのがこの研究の1つの結論です。2007年からフローレス原人の頭骨化石の研究を開始し、その歪みの成因について国立成育医療研究センターの金子剛先生に相談し『変形性斜頭』という現象を知ったことから、この着想を得ました。」(海部陽介)

「人類の『柔らかい頭』がいつ誕生したのかを探求しました。新生児・幼児に持つ柔らかい頭ゆえに生じる歪みをどのように指標にしていくか研究チームで議論を積み重ねました。私はヒト新生児頭骨3次元CT像の3D定量分析を担当しました。チーム内の各専門家の分析と議論、検証を経てようやく産まれた難産の論文でした。」(矢野航)

「私たちはヒト頭骨に関するデータと、『変形性斜頭』に関する知見をもっていましたが、それを人類学などの科学に結びつける手立ては持ち合わせていませんでした。ヒト特有の生活様式がいつ始まったのか、というエキサイティングな知見に結びつく仮説と解析手法を提供いただいたチームのメンバーに深く感謝しています。」(彦坂信)