研究者情報
研究者名
堂園 昌伯
概要
原子核は、陽子と中性子からできていますが、陽子と中性子が運動していることや、原子核が必ずしも球対称でないことなど構造は複雑です。こうした構造を深く理解するには、原子核が最も安定な状態(基底状態)からエネルギーが少し高い状態(励起状態)にして観測すると、さまざまな情報が得られることが分かっています。中でも「0⁻」(スピン0、パリティ負)という状態は、原子核を理解するための重要な手掛かりになりますが、実験で効率よく観測することは困難でした。
京都大学大学院理学研究科の堂園昌伯助教(研究当時:東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センター特任助教)、理化学研究所仁科加速器科学研究センター核反応研究部の上坂友洋部長、同センターRIビーム分離生成装置チームの道正新一郎チームリーダー、東京大学大学院理学系研究科附属原子核科学研究センターの矢向謙太郎准教授、大阪大学核物理研究センターの大田晋輔教授らの共同研究グループは、「パリティ移行核反応」と呼ばれる新しい核反応を開発し、原子核の0⁻励起状態を選択的に観測することに成功しました。この手法では、入射粒子で生じた「パリティの変化」を標的原子核へ受け渡します。その様子は、リレーでバトンを渡すことに例えることができます。実験は理化学研究所RIビームファクトリーで行われました。
「0⁻」は原子核の深い構造を見られる「のぞき窓」のようなものです。0⁻状態には、原子核を結び付ける力に深く関わるパイ中間子の性質が比較的はっきりと現れるため、その振る舞いを調べることは原子核の深い構造の理解につながります。本成果により、これまで十分なデータが得られていなかった0⁻状態の系統的研究が可能になります。また、現在行われている実験では決められない素粒子ニュートリノの質量を決める研究などへの応用が期待されます。
本研究成果は、2026年6月30日に日本の国際学術誌「Progress of Theoretical and Experimental Physics」に掲載されました。
研究者のコメント
「『見えなかったものを見えるようにすること』。これは実験研究の醍醐味のひとつです。0⁻状態は重要でありながら長年観測が難しかった状態であり、今回、それを選択的に観測する新しい手法を実証できたことを嬉しく思います。本研究はゴールではなくスタートです。今後、この手法をさまざまな原子核へ適用することで、原子核内部の集団運動やパイ中間子凝縮の理解がどこまで進むのか、私自身とても楽しみです。」(堂園昌伯)