海の中で魚はどこから来て、どこへ向かうのか。この一見単純な問いは、水産資源を守りながら利用するうえで欠かせない一方、広い海を移動する魚を多数追跡することは容易ではありません。
坂本達也 白眉センター/人間・環境学研究科特定助教(兼:ポルトガル海洋大気研究所(Portuguese Institute for Sea and Atmosphere)客員研究員)とSusana Garrido ポルトガル海洋大気研究所主席研究員は、魚の目の水晶体に着目し、イベリア半島周辺に生息するヨーロッパカタクチイワシとヨーロッパマイワシの集団構造を明らかにしました。水晶体中心部の化学組成には魚が発生した海域の特徴が記録され,迅速で低コストな分析が可能です。本研究では、各種500個体超の炭素・窒素安定同位体比を分析し,大規模な由来推定を実現しました。その結果、カタクチイワシでは年や大きさに関わらず半島西岸・南岸・地中海西部の個体間で同位体値が明瞭に異なり、各海域に独立した集団が存在することが示されました。一方、マイワシでは若齢魚でのみ西岸と南岸で異なる特徴を示し、成長に伴って差が小さくなったため、両海域間で頻繁な往来があることが示唆されました。これらの成果は、カタクチイワシ資源の区分見直しを支える根拠の一つとして実際の資源管理にも貢献しており、水晶体分析が資源管理を改善する実践的手法となることを示しています。
本研究成果は、2026年6月13日に、国際学術誌「Progress in Oceanography」にオンライン掲載されました。
研究者のコメント
「単身ポルトガルにわたり、機材を何も持たない中で魚の生態を調べるためにできることは、眼の中から水晶体を取り出し、ピンセットを使ってそれを剝くことだけでした。誰でも魚の回遊や由来を調べられる時代になりつつありそうです。」(坂本達也)
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.pocean.2026.103781
【書誌情報】
Tatsuya Sakamoto, Susana Garrido (2026). Different migration patterns of European anchovy and sardine around Iberian Peninsula revealed by eye lens isotopes. Progress in Oceanography, 247, 103781.