赤色から近赤外領域で円偏光発光(CPL)を示すキラルな有機小分子(SOMs)は、3Dディスプレイやバイオイメージングなどへの応用が期待され注目されています。しかし、これまでに報告されているCPL材料の発光は青~緑色に集中しており、赤~近赤外領域のCPL材料は多くありません。その主な要因として、広いπ共役系を有するキラル分子の合成が困難であることや、一般には赤~近赤外の発光では理論的に発光が起こりにくく発光効率(PLQY)が低いことが挙げられます。
佐藤徹 福井謙一記念研究センター教授、アルブレヒト建 九州大学准教授、中村和宏 同博士課程学生、石割文崇 東京都立大学准教授、櫛田創 筑波大学助教、細貝拓也 産業技術総合研究所上級主任研究員らの研究グループは、プロペラキラリティーを有する新しいキラル発光ラジカルを開発しました。本材料は、従来の発光ラジカル材料と比較して、30倍程度の高い発光効率(PLQY)および100倍程度の高い光安定性を示し、室温ではほとんどラセミ化しないことが確認されました。加えて、深赤色である波長700nm付近でCPLを示すことが確認されました。また、本ラジカルをポリスチレン微粒子に導入することで、「ささやきの回廊モード」(WGM)と呼ばれるレーザー発振の前段階となる共振発光が発光ラジカルとして初めて観測されました。今回開発した材料は3Dディスプレイ、バイオイメージング、レーザーや量子情報科学分野への応用が期待されます。
本研究成果は、2026年4月24日に、国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」に掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1002/anie.1914320
【書誌情報】
Kazuhiro Nakamura, Kenshiro Matsuda, Kosuke Anraku, Keiko Yamaoka, Taisuke Matsumoto, Fumitaka Ishiwari, Takeaki Zaima, Wataru Ota, Emiko Fujiwara, Tohru Sato, Yoshitaka Inoue, Soh Kushida, Yohei Yamamoto, Takuya Hosokai, Ken Albrecht (2026). Luminescent Donor-Acceptor Radical With Propeller Chirality: Bright and Photostable Red Circularly Polarized Luminescence and Whispering Gallery Mode Resonance. Angewandte Chemie International Edition, e1914320.