謎の藻類共生性菌類の84年振りの再発見―独自に藻類と共生した新科新属新種―

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 森山貴登 農学研究科修士課程学生(研究当時:農学部学生)、遠藤千晴 同研究員(現:生命科学研究科研究員)、井鷺裕司 同教授、田中千尋 地球環境学堂教授(兼:農学研究科教授)、橋本陽 理化学研究所研究員らの研究グループは、1941年にスケッチのみで報告された、藻類と共生する正体不明の菌類を京都市郊外より再発見しました。研究グループは生態観察および形態観察、DNA配列に基づく分子系統解析を行った結果、宿主となる藻類はカワノリ目のRadiococcus signiensisに近縁であり、寄生菌は子嚢菌門クロイボタケ綱ナチプシラ目に属する、これまでに知られていなかった種であることが明らかになりました。本研究では本菌に対して新たにチェルマキア科チェルマキア属を提案し、Tschermakia inclusaを新種記載しました。藻類との共生は子嚢菌門の進化の中で独立して複数回生じてきたと考えられていますが、本菌は他の藻類共生が知られる系統から独立しており、進化の過程で藻類との共生能力を独自に獲得したと考えられます。本成果は、本研究は藻類と共生する菌類の系統多様性が従来の想定以上に高いことを示しています。

 本研究成果は、2026年3月31日に、国際学術誌「Fungal Biology」に掲載されました。

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単細胞緑藻類の細胞外多糖からなるゼラチン状のコロニーの内部で子嚢菌Tschermakia inclusaが単細胞緑藻類に接触している様子。(撮影者:森山貴登)

研究者のコメント

「京都市内という身近な環境から84年振りに再発見されたTschermakia inclusaRadiococcusの生物間相互作用は、私たちの身近な場所にも未知の生物が私たちの知らないやり方で生きていることを物語っています。生物多様性の保全や微生物資源の活用のためにも、また<私たちが生きている世界は一体どのようなものなのか>という問いに対する自分なりの答えを模索していくためにも、知られざる隣人達の生き様を一つ一つ丁寧に掬い上げる研究を続けていきたいと思っています」(森山貴登)

「菌類は生態系の機能を支える重要な生物群である一方、その多様性、生活史、そして他生物との相互作用がどのように進化してきたのかは、いまだ十分に理解されていません。藻類学者チェルマックが存在を示していながら正体が不明のまま残されてきた宿題の解決から、未知の系統の発見と共生様式を具体的に位置づけられることを示しました。今後もこのような地道な研究を積み重ねることで、菌類の進化と生物間相互作用の全体像に迫りたいです」(橋本陽)

「本研究では、主にDNA配列データの取得に関わる分子実験に携わりました。80年以上前にスケッチのみで記録されていた菌類が、分子データによってその正体を明らかにされる過程に関われたことを光栄に思います。過去の観察と現代の分子生物学が結びつき、分子データによってその進化的位置づけが具体的に示されたことは、大変印象深い経験でした。」(遠藤千晴)

「従属栄養生物である菌類は、進化史上、幾度も独立栄養生物である植物体に侵入してそこから直接栄養を得ようとしてきました。現生の地衣類はこの進化史の中では比較的新しく出現してきたと考えられていますが、この地衣共生にいたる段階にあると考えられる菌類―藻類の生物間相互作用についてはまだ十分調査研究が行われていないのが実情です。調査が進み、各段階の生物間相互作用の実態が明らかになり、さらに、研究が進んでいる菌類と種子植物間の相互作用と比較できるようになれば、『共生』の進化過程のメカニズムの本質に迫れると期待しています。」(田中千尋)

研究者情報
研究者名
Takato Moriyama
研究者名
遠藤 千晴
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.funbio.2026.101757

【書誌情報】
Takato Moriyama, Chiharu Endo, Yuji Isagi, Chihiro Tanaka, Moriya Ohkuma, Akira Hashimoto (2026). Rediscovery of “Gloeocystis-Halbflechte” after 84 years revealed an independent lineage of ascomycetes harboured in gelatinous algal biofilms. Fungal Biology, 130, 4, 101757.