生体内の「不良細胞」を見分けて排除する仕組みの一端を解明―細胞競合の「敗者細胞」が決まる分子機構―

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 動物の生体内では、遺伝子変異やストレスによって生じた「不良細胞」が周囲の正常細胞によって排除されることが知られており、この現象は「細胞競合(cell competition)」と呼ばれています。細胞競合は異常細胞やがん細胞を生体から除去するための重要な機構と考えられていますが、どのようにして排除されるべき細胞(「敗者細胞」)が決まるのか、その仕組みは十分に理解されていませんでした。これまでの研究で、細胞競合によって排除される細胞では、細胞内でXrp1と呼ばれるタンパク質の量が顕著に増え、このXrp1の働きによって細胞が死に至ることがわかってきました。しかし、細胞内でXrp1の量がどのような仕組みで上昇するのかは長らく不明でした。

 このたび、井垣達吏 生命科学研究科教授、掛村文吾 同助教らの研究グループは、ショウジョウバエを用いて細胞内のXrp1の発現上昇メカニズムを解析しました。その結果、正常細胞では Xrp1遺伝子のmRNAは豊富に存在しているにもかかわらずタンパク質に翻訳されておらず、不良細胞でのみ翻訳されてXrp1タンパク質が生まれていることを発見しました。さらにそのメカニズムとして、Xrp1 のmRNAには uORF(上流オープンリーディングフレーム)と呼ばれる塩基配列が存在し、これによって正常細胞ではXrp1とは異なるアミノ酸配列のタンパク質が作られていることがわかりました。ところが不良細胞では、リボソームタンパク質RpS12の働きによってXrp1 mRNAの選択的スプライシングが起こり、これによってuORFが除去されてXrp1タンパク質を作れるようになり、それにより細胞死が起こって不良細胞が消失することが明らかになりました。本研究は、遺伝子の選択的な翻訳制御が細胞競合を引き起こして生体を守るという新しい分子機構を発見したもので、生体の恒常性維持の仕組みやがんなどに対する予防医学・治療法の確立に重要な知見を提供するものです。

 本研究成果は、2026年3月25日に、国際学術誌「Cell Reports」に掲載されました。

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本研究で明らかとなった不良細胞が決まる仕組みのモデル(🄫京都大学 作成:掛村文吾 京都大学大学院生命科学研究科システム機能学分野)

研究者のコメント

「細胞競合は生体内に生じた不良細胞が周囲の正常細胞によって排除される現象です。非常に興味深い現象ですが、そのメカニズムについてはいまだ不明な点が多いです。今回の研究では、意外なことにリボソームタンパク質が転写後制御を介して転写因子Xrp1を誘導し、これによって敗者細胞が決まるという興味深いメカニズムを見いだすことができました。今後、これらの上流で機能するイベントをさらに研究することで、細胞競合現象の本質に切り込めると期待されます。」(掛村文吾)

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