近年、がんに対する免疫細胞の働きを高める「免疫チェックポイント阻害薬」が実用化され、がん免疫療法として一部のがんでは非常に高い治療効果を示しています。しかし、日本でがん罹患数の第1位、がん死亡数の第2位の大腸がんでは、大部分の症例でこの治療が効かず、新たな治療戦略の開発が強く求められています。その理由のひとつとして、多くの大腸がんでは、がん細胞を攻撃する免疫細胞であるCD8陽性T細胞ががんの中に侵入できないことがあげられます。
妹尾浩 医学研究科教授、中西祐貴 同助教、牟田優 同助教、岩根康祐 同医員らの研究グループは、間質が豊富で治療が効きにくい大腸がんに多く存在するトロンボスポンジン-2(THBS2)というタンパク質が、CD8陽性T細胞ががん内部への侵入を妨げ、がん免疫を抑制していることを世界で初めて解明しました。
また、マウスモデルを用いて、THBS2の働きを抑えることで、免疫細胞が腫瘍内に「呼び込まれる」こととなり、その結果腫瘍が小さくなり、免疫療法の効果も大幅に増強することを明らかにしました。この成果により、THBS2を標的とすることで、現在有効な治療手段が限られている大腸がんの克服に大きく前進すると期待されます。今後は、THBS2阻害薬の開発や、他のがん種への応用可能性について研究を進めていく予定です。
本研究成果は、2025年11月23日に、国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

研究者のコメント
「がんは、早期に発見できない限りは根治が難しい病気です。特に、罹患率・死亡率ともに高い大腸がんをはじめとする消化器がんは悪性度が高く、治療成績も依然として十分とは言えません。中でも、今回取り上げた間質が豊富な大腸がんは、免疫療法を含む他のがん種で有効な治療が、多くの患者さんで効果を示さないという課題があります。本研究の成果から、こうした免疫が抑制されてしまう背景に、線維芽細胞が産生するTHBS2が関与していることを明らかにしました。さらに、THBS2を抑制することで、がん免疫療法が劇的に効果を発揮するようになることも確認できました。今回の発見を活かすことで、これまで治療が効きにくかった大腸がんに対して、より効果的な新しい治療法の開発につながる可能性があります。今後、臨床応用に向けて研究を進めていきたいと考えています。」
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-025-66485-2
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/298816
【書誌情報】
Kosuke Iwane, Yuki Nakanishi, Yu Muta, Jiayu Chen, Kento Yasumura, Mayuki Omatsu, Naoki Aoyama, Munehiro Ikeda, Yoko Masui, Liyang Cai, Go Yamakawa, Kensuke Hamada, Kenta Mizukoshi, Munenori Kawai, Kei Iimori, Shinnosuke Nakayama, Nobukazu Agatsuma, Takahiro Utsumi, Munemasa Nagao, Takahisa Maruno, Yukiko Hiramatsu, Nobuyuki Kakiuchi, Masahiro M. Nakagawa, Yasuhiro Fukui, Yukina Kusunoki, Hiroaki Kasashima, Masakazu Fujimoto, Yoshiro Itatani, Toshiaki Kogame, Akihisa Fukuda, Masakazu Yashiro, Kiyoshi Maeda, Kenji Kabashima, Kazutaka Obama, Seishi Ogawa, Maria T. Diaz-Meco, Jorge Moscat, Hiroshi Seno (2025). Targeting fibroblast derived thrombospondin 2 disrupts an immune-exclusionary environment at the tumor front in colorectal cancer. Nature Communications, 16, 11590.
朝日新聞(2025年12月16日夕刊 8面)、日刊工業新聞(2025年12月9日 25面)に掲載されました。