銅酸化物の高温超伝導体で特殊な電子状態「ノード金属」を発見~三層構造が高い超伝導を実現する仕組みの解明へ~

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 吉田鉄平 人間・環境学研究科教授、出田真一郎 広島大学准教授、有田将司 同技術専門職員、藤森淳 東京大学名誉教授、内田慎一 同名誉教授、藤井武則 同助教、渡辺孝夫 弘前大学教授(研究当時)、足立伸太郎 同博士課程学生(現:京都先端科学大学講師)、田中清尚 自然科学研究機構分子科学研究所准教授(兼:総合研究大学院大学准教授)、石田茂之 産業技術総合研究所主任研究員、野地尚 東北大学助教(研究当時)らと、台湾国立清華大学、米国スタンフォード大学(Stanford University)の国際共同研究チームは、銅酸化物高温超伝導体のなかでCuO2面を3枚もつ三層系銅酸化物の電子状態を詳細に調べ、超伝導転移温度(Tc)を越える温度領域で、「ノード金属」と呼ばれる特殊な金属状態を世界で初めて観測しました。

 本研究グループは、放射光を用いた高分解能の角度分解光電子分光により、ノード金属状態のキャリア濃度依存性を明らかにしました。その結果、キャリア量が非常に少ないCuO2面でも、Tcよりはるかに高い温度から超伝導電子が存在することを発見しました。さらに、超伝導を特徴づけるエネルギーギャップが従来の高温超伝導体よりも著しく大きいことがわかりました。これは、外側2枚と内側1枚のCuO2面の間で生じる「近接効果」により超伝導が安定化されたことを示しています。三層系が最大のTcを示す機構を明らかにした本研究成果は、高温超伝導の起源の解明に貢献するとともに、室温超伝導に向けた高いTcを示す物質設計の指針になることが期待されます。

 本研究成果は、2025年10月27日に、国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。

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3枚の超伝導層(CuO₂面)をもつ三層系銅酸化物高温超伝導体の結晶構造。(a)3枚のCuO₂面が、電荷供給層によって挟まれている。この電荷供給層を酸素アニールや原子置換を行うことでホールや電子がCuO₂面に供給され、CuO₂面のキャリア量が変化し超伝導が発現する。電荷供給層に近い外側CuO₂面の方が内側CuO₂面よりもキャリア量が多い。本研究では、内側CuO₂面由来の電子状態で「ノード金属」を初めて観測することに成功した。(b) CuO₂面でのエネルギーギャップの形がd波対称性をもつ状態の模式図。超伝導電子が角度依存性をもち、ノード(節)、アンチノード(腹)の方向がある。ノード方向は、図(b)の45°方向の矢印で示す銅原子-銅原子方向、アンチノード方向は図(b)の上矢印で示す銅原子-酸素原子方向に対応する。d波超伝導はノード方向でエネルギーギャップがゼロ、アンチノード方向で最大となる。
研究者のコメント
「高温超伝導に特有のd波ギャップが高温まで保たれるという今回の結果は、非常に意外で興味深いものでした。超伝導が壊れそうな条件でも、三層構造であることで超伝導が維持された点は重要です。今後、伝導層間の役割をさらに明らかにすることで、高温超伝導が実現する条件の理解が進むと期待しています。」(吉田鉄平)
研究者情報
書誌情報
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/297923
 
【書誌情報】
Shin-ichiro Ideta, Shintaro Adachi, Takashi Noji, Shunpei Yamaguchi, Nae Sasaki, Shigeyuki Ishida, Shin-ichi Uchida, Takenori Fujii, Takao Watanabe, Wen O. Wang, Brian Moritz, Thomas P. Devereaux, Masashi Arita, Chung-Yu Mou, Teppei Yoshida, Kiyohisa Tanaka, Ting-Kuo Lee, Atsushi Fujimori (2025). Proximity-induced nodal metal in an extremely underdoped CuO₂ plane in triple-layer cuprates. Nature Communications, 16, 9470.