滝田順子 医学研究科教授、加藤格 同講師、三上貴司 同特定研究員(現:同特定助教)、髙木正稔 東京科学大学教授、James Badger Wing 大阪大学教授らの研究グループは、急性リンパ性白血病(ALL)が治療中に別の系統である急性骨髄性白血病(AML)へと変化して再発する「系統転換(lineage switch)再発」に注目し、その病態解明を行いました。マルチオミクス解析(RNAシーケンス、全エクソーム解析、CyTOF、シングルセルRNA解析など)を駆使して患者検体を解析した結果、KMT2A遺伝子再構成を有する系統転換したAMLは、白血病細胞自体が免疫を抑制する能力を持つ「単球性骨髄由来抑制細胞(monocytic myeloid-derived suppressor cell: M-MDSC)」に類似した特徴を獲得していることが明らかになりました。これらの白血病細胞はがん細胞を攻撃するT細胞の働きを抑え、制御性T細胞を誘導するなど、「がん免疫」から逃避する性質を持つことが確認されました。本成果は、難治性白血病の新たな治療標的の発見につながると期待されます。
本研究成果は、2025年8月26日に、国際学術誌「Nature Communications」にオンライン掲載されました。
「臨床現場で大変悔しい思いをさせられた、がん免疫療法時代に現れた新たな壁である『系統転換再発』を、白血病細胞自身が持つ免疫抑制能力の観点から捉えることができました。本研究は症例を集めることがとても困難でしたが、全国の小児血液腫瘍の診療に携わる先生方の惜しみないご協力を得て、国内5症例の貴重な検体で検討を進めることができました。心より御礼を申し上げるとともに、難治性白血病を乗り越える治療法開発を目指して今後も研究を進めて参ります。」
【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-025-63271-y
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/297248
【書誌情報】
Takashi Mikami, Itaru Kato, Akira Nishimura, Minenori Eguchi-Ishimae, Tatsuya Kamitori, Keiji Tasaka, Hirohito Kubota, Tomoya Isobe, Yoshinori Uchihara, Yui Namikawa, Satoru Hamada, Shinichi Tsujimoto, Shotaro Inoue, Takayuki Hamabata, Kazushi Izawa, Takako Miyamura, Daisuke Tomizawa, Toshihiko Imamura, Hidemi Toyoda, Mariko Eguchi, Hiroaki Goto, Seishi Ogawa, Masatoshi Takagi, James Badger Wing, Junko Takita (2025). Multi-omics analysis identifies an M-MDSC-like immunosuppressive phenotype in lineage-switched AML with KMT2A rearrangement. Nature Communications, 16, 7955.