光照射により「追いかけっこ」して回り続けるスピン―光で電子間の作用反作用の法則を破る―

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 田財里奈 基礎物理学研究所助教、花井亮 東京科学大学准教授、大槻太毅 岡山大学准教授の研究チームは、光を当て、固体中の特定の電子が外へ抜けやすい「出口」を作ることで、通常の物質が従う作用反作用の法則を見かけ上破る「非相反相互作用」を人工的に生み出す方法を理論提案しました。磁性金属二層に適用することで、片方の層では磁化が相手と同じ向きに揃おうとする一方、他方の層では逆向きになろうとし、結果として、二層の磁性金属の磁化が「追いかけっこ」をして自発的に回り続ける状態を誘起できることを予言しました。

 熱平衡状態にある通常の物質は、一方の物体が他方に力を加えると、他方も同じ大きさで反対向きの力を同時に返すという基本原理である作用反作用の法則に従います。しかし、外部からエネルギーを注ぎ続ける非平衡系では、この法則が実効的に破れた非相反相互作用が現れることがあります。例えば生命系の運動等を扱うアクティブマター分野では、各個体が自らの内蔵するエネルギーを使うことで、個体間に働く相互作用が非相反になる例が数多く知られています。

 本研究では、生命系で普遍的に現れるこの現象を固体に適用し、光で適切な条件の電子にエネルギーを注入する状況を設計することで、磁性体中の電子の相互作用を非相反にする方法を理論的に示しました。これにより、一方の層は相手と同じ方向を向きたがり(強磁性的)、他方の層は逆方向を向きたがる(反強磁性的)状況が生まれ、その結果、二層の磁化が「追いかけっこ」し回転運動する状態になることを予言しました。また、光の周波数や強度を調整するだけで回転のオン・オフや速度を制御でき、発振周波数を入力レーザー強度で変えられる周波数変調機への応用も考えられます。

 本研究成果は、2025年9月18日に、国際学術誌「Nature Communications」に掲載されました。

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本研究で提案した手法をニ層の磁性金属を接合した系に適用したときの相図。光を当てていないときに平行であった二層の磁性が、光を当てることで反平行になったり、追いかけっこする状態になったりする。
研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41467-025-62707-9

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/297012

【書誌情報】
Ryo Hanai, Daiki Ootsuki, Rina Tazai (2025). Photoinduced non-reciprocal magnetism. Nature Communications, 16, 8195.