李何萍 野生動物研究センター博士課程学生、三谷曜子 同教授、土橋稜 米国ハワイ大学マノア校(University of Hawaiʻi at Mānoa)博士課程学生、三寺史夫 北海道大学名誉教授(研究当時:同教授)からなる研究グループは、衛星発信器を用いてキタオットセイの北上回遊と海洋環境との関係を明らかにしました。キタオットセイは、繁殖地と越冬地のあいだを季節的に長距離回遊する鰭脚類であり、日本近海は非繁殖期に豊富な餌資源を提供する主要な越冬海域のひとつです。これまで、繁殖地からの南下回遊についてはよく知られていましたが、春に越冬海域から繁殖地へと戻る北上回遊については、タグの脱落や電池寿命、海上での捕獲といった技術的な制約により、詳細な情報が不足していました。本研究では、衛星発信器を用いて若齢のオス個体(亜成獣および未成熟個体)の北上移動を追跡し、移動経路や行動の特徴を記録しました。その結果、餌となる生物が集まりやすい大陸棚縁辺部や、水温8~13℃の海域で採餌行動が集中していることが明らかになりました。さらに、キタオットセイは高気圧性渦の縁辺部を利用して移動する傾向も確認され、長距離移動におけるエネルギー消費を抑えるために、渦の縁辺部を利用している可能性が示唆されました。
本研究の成果は、キタオットセイの北上回遊行動と海洋環境への応答を明らかにし、北海道日本海沿岸域におけるその生態的役割を解明するうえでも重要な知見となります。
本研究成果は、2025年7月30日に、国際学術誌「Deep-Sea Research Part I」にオンライン掲載されました。
【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.dsr.2025.104558
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/296801
Heping Li, Ryo Dobashi, Humio Mitsudera, Yoko Mitani (2025). Northbound movement of northern fur seal (Callorhinus ursinus) and their response to the oceanographic features. Deep Sea Research Part I: Oceanographic Research Papers, 224, 104558.