産後女性のうつ症状は短鎖脂肪酸の産生に関わる腸内細菌叢と食習慣に関連―食生活習慣から身体とこころの健康をまもる支援を目指して―

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 産後うつの症状が見られる産後女性は25〜30%にのぼり、その発症時期や罹患期間は、周産期だけでなく産後4〜5年にわたって長期間持続する可能性があります。うつ病の診断初期には身体症状のみを報告する場合が多く、こころの不調を身体的側面から包括的に検討するという視点が求められます。これまでの研究で、うつ病患者の腸内細菌叢の多様性や組成は健常者のそれと異なることが示されています。また、野菜や果物、魚の摂取を中心とする食習慣はうつ病の緩和に関連する可能性があります。しかし、産後の女性を対象とした研究は世界的にも限られており、特に未診断・未治療のうつ病の早期発見や重症化の予防を目的とした研究は行われていませんでした。

 明和政子 教育学研究科教授、松永倫子 同特定講師らの共同研究グループは、0~4歳の乳幼児を養育中の女性344名を対象に、うつ症状と腸内細菌叢、食生活習慣との関連を検証しました。その結果、精神疾患や身体疾患のない産後女性では、うつ症状が高い者ほど腸内細菌叢の多様性が低いこと、とくに短鎖脂肪酸の中でも酪酸の産生に関わる菌(e.g., Lachnospira属、Faecalibacterium属、Subdoligranulum属)の相対量が少ないことが明らかとなりました。また、参加者の食事パターンを探索的に検討した結果、野菜や肉、魚を摂取するだけでなく、大豆食品や発酵食品、海藻やきのこなどを積極的に摂取することが、産後女性のうつ気分や身体症状の緩和、腸内細菌叢の健康な状態維持に寄与する可能性が示されました。

 本研究成果は、2025年9月2日に、国際学術誌「PNAS Nexus」にオンライン掲載されました。

 

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本研究の概要
研究者のコメント
「研究にご協力いただいたすべての皆様に、心より感謝申し上げます。日本人の腸内細菌叢には日本人にあった食生活習慣が重要だと考えて研究を重ねてきました。野菜や肉、魚をバランスよく食べるだけではうつ症状に関連せず、大豆製品や発酵食品、海藻やきのこの摂取などが心身の健康に寄与する可能性が示され、日本が古くから築いてきた和食文化の奥深さを痛感しました。今後も研究を一歩ずつ積み重ね、個別型の支援方法の開発を目指していきたいと思います。」(松永倫子)
研究者情報
研究者名
Michiko Matsunaga
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1093/pnasnexus/pgaf169

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/296685

【書誌情報】
Michiko Matsunaga, Mariko Takeuchi, Satoshi Watanabe, Aya K Takeda, Keisuke Hagihara, Masako Myowa (2025). Association of short-chain fatty acid–producing gut microbiota and dietary habits with maternal depression in a subclinical population. PNAS Nexus, 4, 9, pgaf169.

メディア掲載情報

毎日新聞(2025年9月14日 19面)、朝日新聞(2025年10月3日 8面)に掲載されました。