X連鎖性ミオチュブラーミオパチー(XLMTM)は、生まれつき全身の著しい筋力低下を引き起こす、重篤な先天性の筋疾患です。現在、支持療法のほか、遺伝子治療などの先進的な治療法の開発が進められていますが、根本的な治療法はまだ確立されていません。その背景には、筋力低下がどのような仕組みで生じるのか、そのメカニズムが十分に解明されていないという課題がありました。
甲良謙伍 医学部附属病院医員、吉田健司 同助教、滝田順子 同教授、櫻井英俊 iPS細胞研究所准教授らの研究グループは、患者由来のiPS細胞を用いることで、細胞内の様々なシグナルを伝える役割を持つ小器官「リソソーム」が細胞の隅に異常に集積する現象を発見しました。さらに、この異常な集積が細胞成長のアクセル役である「mTORC1」シグナルを活性化させ、正常な筋肉の成熟を妨げていることを明らかにしました。このmTORC1の働きを薬剤で抑制すると筋細胞の分化障害が改善することから、本研究は遺伝子治療とは異なる新しい治療薬開発の可能性を示すものであり、今後のXLMTM治療に新たな道を開くことが期待されます。
本研究成果は、2025年7月29日に、国際学術誌「Brain」にオンライン掲載されました。

【DOI】
https://doi.org/10.1093/brain/awaf278
【書誌情報】
Kengo Kora, Takeshi Yoshida, Atsushi Yokoyama, Kei Fujiwara, Naoko Yano, Taisei Kayaki, Satoshi Kajimoto, Kinuko Nishikawa, Hidetoshi Sakurai, Junko Takita (2025). Aberrant lysosomal dynamics disrupt myogenesis via mTORC1 signalling in X-linked myotubular myopathy. Brain, awaf278.