三次リンパ組織における代謝微小環境の解明―グルタチオンが鍵となる免疫代謝制御機構―

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 三次リンパ組織(Tertiary lymphoid structure: TLS)は老化や感染など様々な刺激によって非リンパ臓器に誘導される異所性のリンパ組織で、局所における免疫応答の起点として機能します。腎臓におけるTLSは間質の炎症や尿細管障害を誘導し、IgA腎症や移植腎など様々な病態において腎予後を悪化させることが知られています。一般に免疫器官はリンパ球の増殖や免疫応答のため様々な代謝資源を必要とすることから、TLSの形成過程では劇的な代謝リモデリングが生じていると予想されていましたが、その詳細はこれまで不明でした。

 柳田素子 医学研究科教授(兼:高等研究院ヒト生物学高等研究拠点(ASHBi)主任研究者)、 杉浦悠毅 同特定准教授、荒井宏之 同研究生(現:米国セントルイス・ワシントン大学(Washington University in St. Louis)リサーチフェロー)らの研究グループは、イメージング質量分析・メタボローム解析と、多重免疫染色・in situ hybridization(RNAscope)・薬理学的阻害実験などを組み合わせることにより、腎臓のTLSには抗酸化物質であるグルタチオンと酸化ストレスの双方が高度に集積していることを見出し、グルタチオン合成経路の阻害によって生体内でTLS形成が抑制されることをはじめて明らかにしました。さらに、腎臓にTLSがあるマウスとヒト双方で尿中グルタチオン濃度が有意に上昇しており、IgA腎症患者において尿中グルタチオンがTLSを非侵襲的に検出する新規バイオマーカーとして機能することを示しました(特許出願中)。将来的に、TLSを標的とした免疫代謝的な介入が腎疾患の新たな治療法となる可能性があります。

 本研究成果は、2025年8月8日に、国際学術誌「Journal of the American Society of Nephrology」にオンライン掲載されました。

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研究者のコメント
「本研究は、私達の研究グループのメインテーマである三次リンパ組織を、代謝の観点から新たに捉え直そうという発想でスタートしました。免疫代謝(Immunometabolism)の分野は、これまで主にin vitroで活発に研究が進められてきましたが、生体内で実際にどのような現象が生じているのかはほとんどわかっていませんでした。代謝解析の技術は、当時慶應義塾大学にいらっしゃった杉浦悠毅先生のもとへ定期的に伺い指導を受け、少しずつ習得しました。後に杉浦先生が京大に着任され、新幹線に乗らなくても近衛通を渡るだけで研究室に伺えるようになり研究がやりやすくなりました。実験系の構築や解析に苦しみ試行錯誤を重ね、研究を断念しようかと思ったこともありました。しかし、苦労の甲斐あり、最終的にはこれまで知られていなかった『生体内での免疫代謝メカニズム』の一端を明らかにし、腎臓病に対する新たな治療コンセプトと新規バイオマーカーとしての可能性を示せたことを嬉しく思います。腎臓病領域は、他領域と比較して有効な治療薬が限られているのが現状です。今後さらに研究を進めることで、腎臓病の新たな治療法の開発や診断技術の革新につながることを願っています。最後になりましたが、長年ご指導いただきました柳田先生、杉浦先生はじめ皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。 」(荒井宏之)
研究者情報
研究者名
荒井 宏之
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1681/ASN.0000000825

【書誌情報】
Hiroyuki Arai, Yuki Sugiura, Shinya Yamamoto, Takahisa Yoshikawa, Yuta Matsuoka, Rae Maeda, Hiroyuki Neyama, Ryo Kamimatsuse, Shima Goto, Keisuke Taniguchi, Naoya Toriu, Makiko Kondo, Yuki Sato, Shingo Fukuma, Motoko Yanagita (2025). Glutathione Synthesis via the Cystine/Glutamate Transporter Promotes the Formation of Tertiary Lymphoid Structures in the Kidney. Journal of the American Society of Nephrology.