小笠原諸島の絶滅危惧のハト 個体数増加の背景に遺伝的浄化

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 辻本大地 農学研究科博士課程学生(現:同研究員)、井鷺裕司 同教授、高柳真世 東京動物園協会職員、石井淳子 同職員、坂下涼子 上野動物園職員、堀越和夫 小笠原自然文化研究所理事長、鈴木創 同副理事長らの研究グループは、世界自然遺産・小笠原諸島にのみ生息する絶滅危惧種アカガシラカラスバトが、隔絶された小さな島で長年にわたって生き延びてきた過程において、有害な突然変異がゲノムから除去される、いわゆる「遺伝的浄化」が起きていたことを明らかにしました。

 一般的に生物が絶滅寸前まで減少すると、近親交配によって劣性の有害変異が発現し、個体数の回復力が著しく低下します。アカガシラカラスバトは2000年代に数十羽まで減少しましたが、外来の天敵であるノネコが捕獲されると、野生個体数が大幅に増加しました。本研究で明らかになったゲノムレベルの遺伝的浄化は、アカガシラカラスバトの回復を支えたと考えられます。本研究は、絶滅危惧種の回復力に、有害な突然変異の蓄積量などのゲノム構造が関係していることを示唆しており、生物保全に新たな視点をもたらすものです。本研究で得られた各個体の詳細なゲノム情報は、種の保存法に基づいて2001年より進められてきた本種の保護増殖事業に活用されることが期待されます。

 本研究成果は、2025年7月15日に、国際学術誌「Communications Biology」にオンライン掲載されました。 

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小笠原諸島の絶滅危惧種アカガシラカラスバト。2000年代には「幻の鳥」とまで言われたが、近年では住宅地の近くでも見られるようになった。(撮影:辻本大地)
研究者のコメント
「アカガシラカラスバトは遺伝的浄化を経験しており、有害な突然変異がもたらす弊害が比較的少ない絶滅危惧種であることがわかりました。しかし、多くの絶滅危惧種では遺伝的浄化が起こっていないことも知られています。遺伝的浄化が起こうる絶滅危惧種にはどのような特徴があるのでしょうか?遺伝的問題が深刻化しやすい生物とは異なる特徴を持っているのでしょうか?こうした違いを理解することができれば、遺伝的リスクにより適切に対処することができ、いっそう効果的な生物保全に繋げることができます。今後もゲノム情報を活用し、急速に失われつつある生物多様性の保全に貢献していきたいと考えています。」(辻本大地)
研究者情報
研究者名
Daichi Tsujimoto
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s42003-025-08476-z

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/295726

【書誌情報】
Daichi Tsujimoto, Mayo Takayanagi, Jyunko Ishii, Ryouko Sakashita, Kazuo Horikoshi, Hajime Suzuki, Yuji Isagi (2025). Genetic purging in an island-endemic pigeon recovering from the brink of extinction. Communications Biology, 8, 1051.