ブラックホールの乱れた「和音」の響き―時空の大域的構造を捉えた重力波波形の構築―

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 あらゆる楽器に固有の音色があるように、ブラックホールは特徴的な周波数と減衰率(準固有振動)をもつ時空のさざなみ(重力波)を放射します。ブラックホール分光法は、このリングダウン重力波からブラックホールの性質を読み解く手法であり、音だけで楽器を識別することに似ています。しかし、実際の重力波は準固有振動だけでは記述しきれず、時空の大域的構造を反映する「テイル重力波」と呼ばれるゆっくりと減衰する成分も含まれます。また、準固有振動数の構造は、わずかな外的環境の変化に敏感で乱れやすいことも指摘されていました。これらは、ブラックホール分光法の有用さに対する問いを投げかけます。

 大下翔誉 白眉センター/基礎物理学研究所特定助教(兼:理化学研究所客員研究員)、Emanuel Berti 米国ジョンズ・ホプキンズ大学(Johns Hopkins University)教授、Vitor Cardoso デンマーク・コペンハーゲン大学(University of Copenhagen)教授(兼:ポルトガル・リスボン大学(University of Lisbon)教授)らは、この課題を逆手に取り、小さな外的環境で乱れた準固有振動の集合を取り扱うことで、テイル重力波を含む重力波波形を再構成できることを明らかにしました。この発見は、より高精度な重力波解析技術の発展にもつながると期待されます。

 本研究成果は、2025年7月15日に、国際学術誌「Physical Review Letters」に掲載されました。

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ブラックホールが外的環境を伴う状況で振動・重力波を放射するイメージ図。このような状況では、ブラックホールの振動パターンは、時空の大域的構造に関する情報を含むようになる。
研究者のコメント
「2015年以降、多くのブラックホール合体が重力波観測で見つかっている素晴らしい時代です。ブラックホールなどに代表される強重力の物理学や重力波天文学は、理論と観測のすり合わせにより、精密科学の1つとして今後も発展していくことでしょう。しかしながら、観測された重力波データから『極限重力に関する最大限の情報』を引き出し、理論予言と照合していくには、まだ課題も残っているのが実情です。世界中では、課題解決に向けた建設的な競争・論争が繰り広げられています。本研究が、当該分野の発展に貢献することを期待しています。」(大下翔誉)
研究者情報
書誌情報
【書誌情報】
Naritaka Oshita, Emanuele Berti, Vitor Cardoso (2025). Unstable Chords and Destructive Resonant Excitation of Black Hole Quasinormal Modes. Physical Review Letters, 135, 3, 031401