西川博嘉 医学研究科教授(兼:国立がん研究センター分野長、名古屋大学教授)、小山正平 国立がん研究センター部門長(研究当時:同研究員、大阪大学特任准教授)、辨野義己 腸内フローラ研究所理事長(研究当時:理化学研究所特別招聘研究員)らの研究チームは、免疫チェックポイント阻害薬の治療効果を高める新たな腸内細菌としてルミノコッカス科に属するYB328株を同定し、その培養と作用メカニズムの解明に成功しました。
YB328株が腸内で免疫応答の司令塔である樹状細胞を活性化し、その樹状細胞ががん組織まで移動することで免疫効果を発揮するとともに、腸内細菌叢の多様化を通じた樹状細胞のさらなる活性化により、免疫チェックポイント阻害薬の効果を高める可能性が示されました。さらに、YB328株はがん治療薬PD-1阻害薬が効いた患者さんの腸内に特に豊富に見られ、治療の効果や、がんを攻撃する免疫細胞(PD-1陽性CD8陽性T細胞)ががんの中に多く存在することと強く関係する腸内細菌であることが明らかになりました。
本研究は、腸内細菌が腸から離れた臓器に存在するがんの免疫環境に影響を及ぼす仕組みを世界で初めて可視化して明らかにし、特定の細菌の投与によってPD-1阻害薬の効果が改善される分子メカニズムの詳細を解明したものです。
本研究成果により、免疫チェックポイント阻害薬では十分な効果が得られない患者さんにおいても、YB328株を投与することで腸内細菌叢の構成が変化し、免疫チェックポイント阻害薬に反応しやすい腸内環境へと整えることができる可能性が示唆されました。今後YB328株は、がん免疫療法の効果を高める新たな免疫賦活化剤注5としての可能性を持ち、今後の臨床応用が期待されます。
本研究成果は、2025年7月14日に、国際学術誌「Nature」 に掲載されました。

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41586-025-09249-8
【書誌情報】
Nina Yi-Tzu Lin, Shota Fukuoka, Shohei Koyama, Daisuke Motooka, Dieter M. Tourlousse, Yuko Shigeno, Yuki Matsumoto, Hiroyuki Yamano, Kazutoshi Murotomi, Hideyuki Tamaki, Takuma Irie, Eri Sugiyama, Shogo Kumagai, Kota Itahashi, Tokiyoshi Tanegashima, Kaori Fujimaki, Sachiko Ito, Mariko Shindo, Takahiro Tsuji, Hiroaki Wake, Keisuke Watanabe, Yuka Maeda, Tomohiro Enokida, Makoto Tahara, Riu Yamashita, Takao Fujisawa, Motoo Nomura, Akihito Kawazoe, Koichi Goto, Toshihiko Doi, Kohei Shitara, Hiroyuki Mano, Yuji Sekiguchi, Shota Nakamura, Yoshimi Benno, Hiroyoshi Nishikawa (2025). Microbiota-driven antitumour immunity mediated by dendritic cell migration. Nature.