海洋の窒素循環を解明する新たな研究~アナモックスの酸素同位体分別測定に初めて成功~

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 大西雄二 生態学研究センター日本学術振興会特別研究員(PD)、木庭啓介 同教授は、岡部聡 北海道大学教授、小林香苗 海洋研究開発機構特任研究員らと共同で、嫌気性アンモニア酸化(アナモックス)反応における酸素同位体分別(18ε)を求めることに世界で初めて成功しました。

 海洋の窒素循環は、地球環境の維持に不可なサイクルであり、その仕組みを正確に理解することにより、気候変動対策や生態系の保全に大きく寄与することができます。しかし、その中で重要な役割を果たす嫌気性アンモニア酸化(アナモックス)による窒素除去のプロセスについては、まだ未解明な点が多く残されています。特に、アナモックスの酸素同位体分別(18ε)は、反応が複雑であるためこれまで全く研究が行われていませんでした。本研究では、海洋性アナモックス細菌 Ca. Scalindua sp.(以下「Scalindua」)の高度に集積した培養液を用いて、アナモックス反応の酸素同位体分別(18ε)((1)NO2からN2への変換(18εNO2→N2)、(2)NO2からNO3への酸化(18εNO2→NO3)、(3)NO2酸化時の水由来の酸素(O)の取り込み(18εH2O))の測定に世界で初めて成功しました。さらに、Scalindua は、亜硝酸(NO2)と水(H2O)の間での酸素同位体交換を、従来の非生物的な交換速度の約8〜12倍の速さで促進することが確認されました。その結果、NO2中のO原子の約34%が、硝酸(NO3)へ酸化される前にH2Oと交換され、さらに、NO3への酸化過程で1個のO原子がH2OからNO2に取り込まれることが確認されました。この反応により、亜硝酸酸化によって生成されるNO3の酸素同位体比(δ18ONO3)が、周囲の水の酸素同位体比(δ18OH2O)に急速に近づく現象が明らかになりました。

 既往の研究では、好気的な硝化反応(酸素存在下でアンモニアが硝酸に酸化される反応)によって生成される硝酸(NO3)の酸素同位体比(δ18ONO3)は、亜硝酸(NO2)と水(H2O)の間の酸素同位体交換や、分子状酸素(O2)や水からの酸素の取り込みによる同位体効果により、周囲の水の酸素同位体比に近づくことが知られていました。今回の研究成果では、これに加えて、無酸素(嫌気)環境下において、アナモックス細菌により亜硝酸が硝酸へ酸化される際も、同様の現象が起こることが確認されました。この結果は、海洋の窒素の損失量を評価するための地球化学的指標である δ18ONO3 や δ18ONO2 が水の酸素同位体比によって書き換えられ、アナモックスや脱窒の酸素同位体シグナルが消失する可能性があることを示しています。そのため、海洋の窒素循環を評価する際には、これらの指標の変動を慎重に分析する必要があります。

 本研究成果は、2025年6月2日に、国際学術誌「The ISME Journal」にオンライン掲載されました。

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海洋の窒素循環における窒素(15ε)、酸素(18ε)同位体分別。「?」は最後の欠けているピース(アナモックス反応の18ε)を示す 。
研究者情報
研究者名
大西 雄二
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1093/ismejo/wraf115

【書誌情報】
Kanae Kobayashi, Kazuya Nishina, Keitaro Fukushima, Yuji Onishi, Akiko Makabe, Mamoru Oshiki, Keisuke Koba, Satoshi Okabe (2025). Oxygen isotope fractionation during anaerobic ammonium oxidation by the marine representative Candidatus Scalindua sp. The ISME Journal, wraf115.