松浦健二 農学研究科教授、高田守 同准教授、高橋迪彦 同特定研究員(現:産業総合研究所日本学術振興会特別研究員)、石橋朋樹 同特定研究員(現:理化学研究所研究員)、田﨑英祐 同特定研究員(現:新潟大学准教授)、エドワード・バーゴ 米国テキサスA&M大学(Texas A&M University)教授らの研究グループは、シロアリの王の年齢が子の将来の社会役割(カースト)に影響を与えることを発見し、その影響が精子のDNAメチル化という「エピジェネティック」な変化により引き起こされることを世界で初めて証明しました。シロアリの社会では、働きアリや羽アリ(将来の繁殖個体)など、異なる役割「カースト」がありますが、これまでその決定要因には謎が多く残されていました。
本研究では、若い王と高齢の性的に成熟した王をそれぞれ同じ年齢の女王と交配させて比較したところ、若い王の子は繁殖個体になる傾向が強いのに対し、高齢の王の子は働きアリとして分化する割合が高いことが分かりました。精子のDNAを解析した結果、年齢によってDNAのメチル化パターンが大きく変化し、その一部の遺伝子が子のカースト決定に関与している可能性が示されました。
この成果は、遺伝情報の違いではなく、親の年齢や性的発達状態の違いが子の発生運命を左右する「エピジェネティックな遺伝」の実態を明らかにするもので、昆虫の社会進化だけでなく、広く生物の発生や進化の理解に大きな示唆を与えるものです。
本研究成果は、2025年6月13日に、国際学術誌「PNAS(米国科学アカデミー紀要)」にオンライン掲載されました。

【DOI】
https://doi.org/10.1073/pnas.2509506122
【書誌情報】
Mamoru Takata, Michihiko Takahashi, Tomoki Ishibashi, Eisuke Tasaki, Olav Rueppell, Edward L. Vargo, Kenji Matsuura (2025). Transgenerational epigenetic effect of kings' aging on offspring's caste fate mediated by sperm DNA methylation in termites. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), 122, 24, e2509506122.