次世代半導体中の欠陥からの磁場による発光の増強と単一光子発生―量子情報通信のためのデバイスの高性能化への新たなアプローチ―

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 インターネットに代表される古典的な光通信は、セキュリティの面において限界がある事が指摘されています。これに対して、量子力学の原理に基づく光の粒子性(単一の光子)を利用した量子情報通信では、こうした根本的な限界を克服する可能性があり、より安全な次世代の通信技術として注目を集めています。

 Yubei Xiang エネルギー科学研究科博士課程学生、篠北啓介 エネルギー理工学研究所助教(現:分子科学研究所准教授)、松田一成 同教授、渡邊賢司 物質・材料研究機構特命研究員、谷口尚 同理事らの研究グループは、次世代半導体である二セレン化タングステン(WSe2)にわずかな欠陥を導入し、そこから発せられる光(発光)を通して、量子情報通信に必要とされる単一光子源としての機能を調べました。その結果、興味深いことにわずかな磁場をかけると、発光信号がより強くなり(明るくなり)、単一光子発生の様子が変化することを見出しました。この発見は外部からの磁場を用いて単一光子源を制御するという新しい手段を提供し、量子通信や量子コンピューティングの将来技術にとって重要な進展と言えます。

 本研究成果は、2025年6月4日に、国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
磁場による二次元半導体中の欠陥からの発光増大と単一光子発生の模式図
研究者のコメント
「本研究成果は、将来の量子情報通信に繋がる新たな可能性を開くものであると考えています。試料の作製や精密光学測定など数多くの困難がありましたが、プロジェクトを通して指導教官や共著者の方々に支えられたことは幸運でした。彼らの励ましとチームワークのおかげで、この研究を形にすることができ、私を助けてくださったすべての方々、特に貴重なアドバイスをくださった先輩方、研究の議論に付き合ってくれた後輩たちに心から感謝しています。」(Yubei Xiang)
研究者情報
研究者名
篠北 啓介
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1126/sciadv.adr5562

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/294648

【書誌情報】
Yubei Xiang, Keisuke Shinokita, Kenji Watanabe, Takashi Taniguchi, Kazunari Matsuda (2025). Magnetic brightening and its dynamics of defect-localized exciton emission in monolayer two-dimensional semiconductor. Science Advances, 11, 23, eadr5562.