生活保護世帯の子どもの入院実態とリスク因子が明らかに―経済的な支援だけでは子どもの健康が保障されない可能性―

ターゲット
公開日

 西岡大輔 医学研究科特定准教授らの研究グループは、日本国内の6自治体(市)における生活保護利用世帯の子どもの生活保護基本台帳データおよび医療扶助レセプトデータを活用し、生活保護利用世帯の子どものプロファイル(基本情報)を作成しました。さらに、子どもの入院の実態と健康を損なうリス因子に関する分析を行いました。

 分析の結果、生活保護利用世帯の子どものうち4.6%が1年間に入院を経験し、中でも特に乳幼児(0歳児、1−4歳児)、ひとり親世帯、ひとり親世帯でなくとも親が就労している世帯、出生時点で生活保護を利用中の世帯の子どもに入院を経験しやすい傾向があることや、自治体間で入院発生率に差が見られることが分かりました。

 これらの結果は、生活保護制度による生活および医療への経済的な支援だけでは子どもの健康リスクを十分に軽減できないことや、特に健康を損なうリスクが集積しやすい世帯があることを示唆しており、貧困世帯の子どもの健康を守り育むための今後の政策形成に重要なエビデンスを提供するものです。

 本研究成果は、2025年6月10日に、国際学術誌「Pediatrics International」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
「就労あり」:世帯員に就労者がいる世帯。「非ひとり親」:ひとり親世帯(親ひとりと子ども)以外の世帯を指し、両親がいる場合、3世代同居の場合、親が不在の場合、施設に入所している場合などさまざまな類型が含まれる。 
研究者のコメント
「生活保護利用世帯の子どもたちは、生活費や医療費が経済的に保障されていてもなお入院リスクが高く、現行の生活保護制度だけでは、特に乳幼児の健康リスクを十分に緩和しないことが示唆されました。貧困世帯の子どもの支援が提唱されていますが、世帯への経済的な支援だけでは子どもの健やかな成長・発達を十分に保障できない可能性を示しています。貧困世帯の子どもを支援するためには今後、詳細なデータを活用した研究・エビデンスづくりがさらに求められます。改正生活困窮者自立支援法において、経済的な支援にとどまらない子どもの学習・居場所・健康づくり支援などが議論されており、その効果を検証することが望まれます。」(西岡大輔)
研究者情報
研究者名
西岡 大輔
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1111/ped.70005

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/294643

【書誌情報】
Daisuke Nishioka, Keiko Ueno, Shiho Kino, Naoki Kondo (2025). Characteristics and hospitalizations among children on public assistance in Japan: A population-based cohort study. Pediatrics International, 67, 1, e70005.