ハサミで音を奏でるカニ―ナンヨウスナガニにおける発音行動の発見―

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 後藤龍太郎 フィールド科学教育研究センター助教、山守瑠奈 同助教、朝倉彰 同特任教授、下村通誉 同教授、田之頭凜 理学部学生、竹下文雄 北九州市立自然史・歴史博物館学芸員、平井厚志 すさみ町立エビとカニの水族館長、土橋彩加 信州大学修士課程学生らの研究グループは、温暖な地域の砂浜に生息するナンヨウスナガニ Ocypode sinensis が、大きな方のハサミを高速で震わせることで発音を行うことを報告しました。スナガニ属はハサミを使った発音行動が有名で、ハサミの内側にある顆粒列(発音器)を同じ鉗脚の座節に擦り合わせたり、ハサミで地面を叩いたりして発音する種が知られています。しかし、ナンヨウスナガニは例外的にハサミに発音器を持たないため、これまで音を発するのか不明でした。巣穴の内部や入り口付近で発音していたことから、配偶相手を誘引する役割や、巣穴への侵入者に威嚇する役割がある可能性が考えられます。振動するハサミの動きは非常に高速で観察が難しく、詳細な発音機構は明らかにできていません。その解決が今後の課題となっています。

 本研究成果は、2025年5月30日に、国際学術誌「Plankton and Benthos Research」にオンライン掲載されました。

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ナンヨウスナガニの雄(撮影:後藤龍太郎)。オレンジ色の大きいハサミを高速で振動させて音を出す。
研究者のコメント

「エビとカニの水族館の平井さんの発見を参考に、シオマネキ類の発音を研究されている北九州市立自然史・歴史博物館の竹下さんのサポートを受けつつ、臨海実習で実習生とスナガニ類の発音行動の観察に取り組みました。その結果、ナンヨウスナガニの発音行動を明らかにすることができました。臨海実験所の目の前の砂浜にいる小さなカニが、ハサミを巧みに使ってこんなに大きな音を出すとは思っておらず、とても驚きました。観察中はなかなか音を出してくれず諦めかけていたのですが、ある日Zoom会議中に、部屋の水槽からよく響く振動音が聞こえてきて、本当に嬉しかったのを覚えています。今後もスナガニ類の発音メカニズムの解明を進めていきたいと考えています。発音行動は屋内でしか観察できていませんが、将来的には野外の砂浜でもその音が聞くことができたら、とても嬉しいです。」(後藤龍太郎)

「シオマネキ類の音声コミュニケーションについて研究をしていることもあり、研究手法や解析についてサポートしました。実際にナンヨウスナガニが発音する映像を見て、同じスナガニ科でも音や発音時のふるまいはずいぶん違うのだなと感心しました。本研究をきっかけに甲殻類の音声コミュニケーション研究がさらに発展することを期待しています。」(竹下文雄)

「発音器を持たないことを確認したカニを入れた水槽から突然発した大きな音には本当に驚きました。砂浜に生息する身近な生物ですが、知られていないことがまだまだたくさんありそうです。やっぱりカニっておもしろい。」(平井厚志)

「公開臨海実習の自由研究課題で扱った実験が、ナンヨウスナガニの発音行動の解明につながりました。今回、多くの方のご協力により発表の機会を得られたことを大変嬉しく思います。」(土橋彩加)

「ナンヨウスナガニの音を聞こうと思って夜中に砂浜で仰向けになっていたら、フナムシが顔に登ってきたのでもんどりうって退散しました。」(山守瑠奈)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.3800/pbr.20.169

【書誌情報】
Ryutaro Goto, Fumio Takeshita, Atsushi Hirai, Ayaka Tsuchihashi, Rin Tanogashira, Luna Yamamori, Akira Asakura, Michitaka Shimomura (2025). Sound production by vibration of the major cheliped in the ghost crab Ocypode sinensis (Ocypodidae). Plankton and Benthos Research, 20, 2, 169-174.