大腸腫瘍進展の新たな分子機序の解明―Regnase-1はNFKBIZ mRNAの分解を介してIL-17 signalingを制御し、大腸腫瘍の発育を抑制する―

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 井口恵里子 医学研究科博士研究員(研究当時)、髙井淳 同講師、妹尾浩 同教授らの研究グループは、大腸腫瘍の進展に関わる新たな分子メカニズムを明らかにしました。

 RNA分解酵素であるRegnase-1は、IL-17経路の重要な分子であるNFKBIZ mRNAを分解し、IL-17経路の活性を抑える働きがあることが分かっています。IL-17経路は大腸腫瘍の発育を促進する働きがあること、大腸粘膜上皮細胞にはRegnase-1が生理的に発現していることに着目し、Regnase-1の大腸腫瘍における役割を解明する目的で研究を開始しました。大腸腫瘍モデルであるApcMin/+マウスで腸管上皮特異的にRegnase-1を欠損させると(Reg1KO-Min)、大腸腫瘍が有意に増加・増大しました。網羅的な遺伝子発現解析では、Reg1KO-Min の腫瘍組織でNfkbizとその下流の分子の発現が上昇しており、さらに、Reg1KO-MinでNfkbizを欠損させると腫瘍が著明に減少・縮小することから、NfkbizがRegnase-1の標的分子と考えられました。Regnase-1発現安定作用を有するDimethyl Fumarate(DMF)を投与すると、Regnase-1発現を有するApcMin/+マウス(Reg1WT-Min)では大腸腫瘍がリン酸化ERKの発現低下を伴って有意に減少・縮小するものの、Reg1KO-MinではDMFの抗腫瘍効果が認められないことから、DMFはRegnase-1の発現安定化を介してIL-17経路の活性化を抑制し、リン酸化ERKなどの増殖シグナルを低下させ、大腸腫瘍抑制効果を示すと考えられました。ヒト大腸腫瘍組織を用いた検討でも、Regnase-1とNFKBIZの発現は逆相関することや、Regnase-1低発現群の予後が不良であることが分かりました。以上より、Regnase-1はNFKBIZ mRNAの分解を介してIL-17経路を制御し、大腸腫瘍の発育を抑制することが明らかとなりました。

 本研究成果は、2025年6月3日に、国際学術誌「PNAS(米国科学アカデミー紀要)」にオンライン掲載されました。

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本研究の概要図
研究者のコメント
「Regnase-1の大腸上皮細胞における標的分子を特定することを通して、大腸腫瘍の分子機序の一端を明らかにすることができたのは、今後の大腸癌の治療を考える上で大きな一歩になるのではないかと思います。この研究を進めるにあたっては紆余曲折があり、思うように進まない時期もありましたが、諦めずに取り組み続けた結果、このような形で論文発表できて大変喜ばしく思っております。これからも消化器癌の克服に向けて、ますます研究を精力的に進めていきたいと考えています。」(髙井淳)
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1073/pnas.2500820122

【書誌情報】
Eriko Iguchi, Atsushi Takai, Natsumi Oe, Yosuke Fujii, Mayuki Omatsu, Haruhiko Takeda, Takahiro Shimizu, Takahisa Maruno, Yuki Nakanishi, Masanori Yoshinaga, Takashi Maruyama, Hiroyuki Marusawa, Kazutaka Obama, Osamu Takeuchi, Hiroshi Seno (2025). Epithelial Regnase-1 inhibits colorectal tumor growth by regulating IL-17 signaling via degradation of NFKBIZ mRNA. Proceedings of the National Academy of Sciences (PNAS), 122, 23,  e2500820122