太陽活動が活発な時期(太陽表面の黒点数が多くなるフェーズ)に、全球平均でみた海面高度は上昇する傾向があります。これは太陽放射の全波長のエネルギー(全放射フラックス)変動の変化による海水の熱膨張では量的に説明できないことが知られており、そのメカニズムは不明でした。
山敷庸亮 総合生存学館教授、John Philip Matthews 名誉教授(Environmental Satellite Applications博士)、増田周平 海洋研究開発機構上席研究員は、利用可能な長期の地球観測データを調べ、パーマー干ばつ深刻度指数(PDSI)と呼ばれる陸水の多寡に関する指数が11年の周期の太陽活動と同期していることを発見しました。このことから、観測される太陽周期の海面変動は、海洋と陸域の水の移動によって引き起こされていることが示唆されます。この定性的な変動特性を、約30年間の精密な衛星観測データ(高度計のデータ、および重力場測定衛星による、陸域の水分貯蔵量のデータ)で確認したところ、定量的にも整合的な結果が得られました。
これらの水の移動が太陽活動の変化とどう関係しているかを約160年間の歴史的データセットを用いて調べたところ、エルニーニョ南方振動(ENSO)の振る舞いが太陽活動の活発さに依存しており、その結果降水パターンに変動がもたらされ、陸上の水分貯蔵量に影響を与えることが統合的な解析により確認されました。
これにより、太陽活動の周期変動が地球の水循環に明確な影響を与えていることが理解され、海面変動のメカニズムに新たな視点が加わりました。この研究成果は、過去および未来の全球平均海面の変動に関する動態の理解を深める重要な一歩となり、気候変動や海面上昇、水資源管理における重要な情報を提供します。
本研究成果は、2025年5月16日に、国際学術誌「Scientific Reports」にオンライン掲載されました。

【DOI】
https://doi.org/10.1038/s41598-025-99880-2
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/294151
【書誌情報】
Shuhei Masuda, John Philip Matthews, Yosuke Alexandre Yamashiki (2025). Origin of the solar-cycle imprint on global sea level change. Scientific Reports, 15, 16770.