水素結合性有機薄膜トランジスタの開発―真の超分子デバイスへの第一歩―

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 山内光陽 化学研究所助教、上野創 同博士課程学生、山本恵太郎 同助教、水畑吉行 同准教授、山田容子 同教授らの研究グループは、塩谷暢貴 同助教、松田大 同特定研究員、長谷川健 同教授との共同研究成果として、水素結合ネットワークを有する有機薄膜トランジスタを、溶液塗布プロセスを通じて開発することに成功しました。ファンデルワールス力と比較して、水素結合は結合方向が明確であり、精密な超分子構造制御を可能としますが、導入により溶媒への溶解性が著しく低下するためトランジスタへの応用例は限定されます。本研究では、高溶解性の熱前駆体を用いた 「熱前駆体法」を取り入れ、難溶性の水素結合性テトラベンゾポルフィリンから構成されるトランジスタを初めて開発しました。アモルファスシリコンに匹敵する電荷移動度に加え、水素結合による優れた熱耐久性を実証しました。さらに、X線解析と多角入射分解分光法により、薄膜中の分子配向と2次元パッキング構造を解明しました。これらの成果は、超分子薄膜の構造解析に向けたロードマップを提示すると共に、未発展であった水素結合性トランジスタの設計指針を提供し、超分子デバイスの発展を後押しします。

 本研究成果は、2025年3月7日に、国際学術誌「Angewandte Chemie International Edition」にオンライン掲載されました。

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本研究で用いた水素結合性有機半導体薄膜の作製手法と分子集合構造
研究者のコメント
「私の専門分野である超分子化学を有機半導体と有意義に融合させたいと考え、2年ほど前に本研究テーマを発案し、筆頭著者の上野氏とともに進めてきました。本研究の目的を達成するには、溶解性の問題、デバイス化への障壁、構造解析の困難さなど、解決すべき課題が多くありました。有難いことに、研究室内外の先生方と密に連携し、各分野の専門性を集結・相互作用させることで、念願の水素結合性トランジスタの実現に至ることができました。」(山内光陽)
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