なぜ大地震発生直前に電離層が降下するのか?―鍵となるのは電離層降下の時定数の見積もり―

ターゲット
公開日

 梅野健 情報学研究科教授、水野彰 同研究員、高明慧 同技術補佐員らの研究グループは、大地震発生直前に起こる電離層降下のメカニズムを解明しました。今まで、大地震発生直前に電離層の降下が観測されましたが、その電離層降下の物理メカニズムは不明でした。

 本研究グループは、高温高圧下の地殻の破砕層にある超臨界水中で発生する超微粒子により地表が正極性に帯電し、この破砕層の帯電により地表と電離層間に電界が発生し、その電界により電離層下部の電子が降下することによって電離層を引き下げ、さらに生成された電場を緩和するため電離層の低下速度が減速する物理モデルを構築しました。その物理モデルから予測される時定数および電離層降下の距離といった物理量が大地震(2024年能登半島地震)直前に観測された値とほぼ一致していることから、本物理モデルが観測事実と整合的であることがわかりました。今後、本物理メカニズムの前提となっていた超臨界水中で発生する超微粒子が正に帯電し、地表に電圧が発生するという仮説の検証を進めることにより、事前防災の鍵となる大地震発生直前の地殻・電離層の異常現象が観測と理論の両面で支持できる確固たる科学基盤となり得ることを実証していきます。

 本研究成果は、2025年4月16日に、国際学術誌「International Journal of Plasma Environmental Science and Technology」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
2024年能登半島地震直前のイオノグラム(防災研究所潮岬風力実験所で観測)
研究者のコメント
「研究はまた一歩前進しました。最初、2011年東北沖地震の翌年から電離層に異常が見られるという通信の技術を活用する検知方法の研究からスタートしましたが、定量的に電離層降下の時定数を予測する電離層異常に関する緩和モデルを構築することができました。まだ観測網の充実という最大の関門が残されておりますが、29万人8千人の命が失われるという試算(内閣府)が出された南海トラフ巨大地震といった大地震が仮に起きたとしても、この研究と観測網の充実により一人でも多くの命が救えるように大学から研究し、研究の社会への発信とともに、社会実装に繋げていく試みをこれからいくつか起こしていきたいと思います。」(梅野健)
研究者情報
研究者名
水野 彰
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.34343/ijpest.2025.19.e01010

【書誌情報】
Akira Mizuno, Minghui Kao, Ken Umeno (2025). Mechanism of ionospheric descent prior to intense earthquakes by electrostatic coupling with an electrically charged fractured layer. International Journal of Plasma Environmental Science and Technology, 19, 1, e01010.

関連部局