がんの約40%は飲酒や喫煙などの予防可能な要因に起因しています。これらのリスク因子は自己申告に基づいて評価されてきましたが、より正確かつ客観的な評価手段の開発が求められています。
近年、がんに関連する遺伝子変異が、正常な細胞においても、加齢や環境因子の影響により蓄積することが明らかとなり、「体細胞モザイク」と呼ばれる現象として知られています。
この度、横山顕礼 医学部附属病院講師、垣内伸之 白眉センター/医学研究科特定准教授、金秀基 神戸朝日病院院長らによる研究チームは、頬粘膜から非侵襲的に採取した試料を用い、最新の遺伝子解析技術によって遺伝子変異を高精度に検出することに成功しました。
その結果、頬粘膜の遺伝子変異の蓄積には食道がんのリスク因子が影響することが明らかになりました。特に、日本人の約40%にみられる、飲酒により顔が赤くなる「フラッシング反応」を呈する人では、少量の飲酒でも遺伝子変異の蓄積に大きな影響を与えることが判明しました。
頬粘膜における体細胞モザイクは、食道がんのリスクを反映する客観的なバイオマーカーであり、実際に、頬粘膜の体細胞モザイクから食道がんの有無を高精度に予測できることが示されました。このことは固形臓器として世界で初めての試みです。
今後、頬粘膜を用いた非侵襲的で正確な食道がんのリスク評価は、がんの早期発見や生活習慣の改善による発がん予防に大きく貢献することが期待されます。
本研究成果は、2025年4月30日に、国際科学誌「Science Translational Medicine」にオンライン掲載されました。

【DOI】
https://doi.org/10.1126/scitranslmed.adq6740
【書誌情報】
Akira Yokoyama, Koichi Watanabe, Yoshikage Inoue, Tomonori Hirano, Masashi Tamaoki, Kenshiro Hirohashi, Shun Kawaguchi, Yoshihiro Ishida, Yasuhide Takeuchi, Yo Kishimoto, Soo Ki Kim, Chikatoshi Katada, Yasuhito Nannya, Hiroshi Seno, Seishi Ogawa, Manabu Muto, Nobuyuki Kakiuchi (2025). Somatic mosaicism in the buccal mucosa reflects lifestyle and germline risk factors for esophageal squamous cell carcinoma. Science Translational Medicine, 17, 796, eadq6740.
朝日新聞(5月1日 21面)に掲載されました。