新型コロナウイルスの細胞内増殖機構を解明―COVID-19の創薬開発に期待―

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 野田岳志 医生物学研究所教授(兼:生命科学研究科教授)、平林愛 同特定研究員、村本裕紀子 同助教、野村紀通 医学研究科准教授、豊岡公徳 理化学研究所上級技師らの研究グループは共同で、感染細胞内で形成された新型コロナウイルスの子孫ウイルス粒子が細胞外へと放出されるためのメカニズムを明らかにしました。

 新型コロナウイルスは細胞で増殖する際、小胞体とゴルジ体の中間に存在する小胞小管クラスター(ER-Golgi intermediate compartment: ERGIC)で子孫ウイルス粒子を形成します。ERGICは袋状の膜構造を持ち、ERGIC膜上で形成された子孫ウイルス粒子はその内腔へと出芽し、小胞を介して細胞表面へと輸送され、細胞外へと放出された後に次の標的細胞に感染します。したがって、子孫ウイルス粒子の小胞輸送はウイルス増殖に必須のステップですが、その分子機構はこれまでほとんど明らかにされていませんでした。本研究グループは、アレイトモグラフィー法、電子線トモグラフィー法、免疫電子顕微鏡法を用いて新型コロナウイルス感染細胞の微細構造を3次元的に解析し、子孫ウイルス粒子を輸送する小胞にCoatomer complex I(COPI複合体)が結合していることを見出しました。ウイルス感染細胞においてCOPI複合体の機能を阻害すると、ERGICの内腔に子孫ウイルス粒子が滞留し、新型コロナウイルスの産生が著しく抑制されることを明らかにしました。本研究により、感染細胞内における子孫ウイルス粒子の輸送においてCOPI複合体が重要な役割を担っていることが明らかになりました。本研究成果は、COPI複合体を標的とした新型コロナウイルスの創薬開発に大きく貢献することが期待されます。

 本研究成果は、2024年11月29日に、国際学術誌「mBio」に掲載されました。

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本研究の発見の概要:ERGIC膜上で形成されその内腔に出芽した子孫ウイルス粒子は、COPI複合体により輸送小胞へと積み込まれ、細胞外への放出に向かう。COPI複合体の機能を阻害すると、輸送小胞の形成が阻害され、ERGIC内腔に子孫ウイルス粒子が停滞し、その結果、子孫ウイルス粒子が細胞から産生されなくなる。
研究者のコメント

「電子顕微鏡はナノメートル単位の小さなウイルスの研究には重要な研究ツールの一つです。今回の新型コロナウイルスの細胞内輸送機構の研究においても、感染細胞全体を高分解能で3次元的に解析したことで、小胞がウイルス粒子を輸送し細胞外に放出している瞬間を捉えることができ、その形態学的特徴から『COPⅠ複合体が小胞輸送に関与する』ことを明らかする大きなヒントとなりました。今後も形態的手法とウイルス学的手法を駆使し、様々なウイルスの増殖機構を視覚的に解明していきたいです。」(平林愛)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1128/mbio.03331-24

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/291104

【書誌情報】
Ai Hirabayashi, Yukiko Muramoto, Toru Takenaga, Yugo Tsunoda, Mayumi Wakazaki, Mayuko Sato, Yoko Fujita-Fujiharu, Norimichi Nomura, Koji Yamauchi, Chiho Onishi, Masahiro Nakano, Kiminori Toyooka, Takeshi Noda (2025). Coatomer complex I is required for the transport of SARS-CoV-2 progeny virions from the endoplasmic reticulum-Golgi intermediate compartment. mBio, 16, 1, e03331-24.

メディア掲載情報

日刊工業新聞(12月4日 23面)に掲載されました。