なぜ熱帯林は巨大なのか?―生態系の老齢化と共に進行するリンの欠乏vs樹木の適応―

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 100万年を超えるような長い時間スケールで、森はどのように変化するのでしょうか?1970年代に提唱された生物地球化学の理論によれば、光合成の必須元素であるリンは、雨によって森林内部から少しずつ流れ出ていき、やがて数百万年の時間が過ぎると樹木は強いリン欠乏に晒されます。これにより、森林は最終的には崩壊・縮小すると予測されてきました。ところが、赤道直下に位置する熱帯雨林の大部分の場所では、土壌が古くリンが極めて少ないにもかかわらず、世界で最も巨大な森林生態系が形成されています。

 青柳亮太 白眉センター/農学研究科助教らは、熱帯樹木が長い歴史を通して環境に適応してきたことにより、リン欠乏を克服し森林を維持している、と仮説をたて、この仮説の検証に挑んできました。スミソニアン熱帯研究所が管理するパナマの森林動態データを解析し、熱帯樹木が環境中のリンが少なくても成長速度や生存率を維持するように適応進化することを明らかにし、熱帯林が巨大な構造を持つ背景には、生物の適応が関わっている可能性を示しました。この成果は、生物が環境に抗って進化する性質を持つことを意味しており、地質学的時間スケールでの生態系動態と持続性を理解する上で鍵となります。

 本研究成果は、2023年10月11日に、国際学術誌「Proceedings of the Royal Society B」誌に掲載されました。

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Credit:きのしたちひろ
研究者のコメント

「これまで森林生態系は長期的にはリンの欠乏によって崩壊・縮小する運命にあるとされてきました。しかし、この生態系観では、環境の変化に対抗する生物の適応が考慮されていません。生態系が数百万年・数千万年かけた進化の産物であるとすると、自然が有難いものに感じます。今回の研究では、国際的な研究ネットワークを活用することで、この仮説の証明に近づくことができたと思っています。」

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1098/rspb.2023.1348

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/286447

【書誌情報】
Ryota Aoyagi, Richard Condit, Benjamin L. Turner (2023). Breakdown of the growth–mortality trade-off along a soil phosphorus gradient in a diverse tropical forest. Proceedings of the Royal Society B: Biological Sciences, 290(2008):20231348.