高分子鎖の「伸長」と「結晶化」が進行する度合いを蛍光イメージングで同時並列的に追跡する手法を開発

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 齊藤尚平 理学研究科准教授、須賀健介 同博士課程学生らの研究グループは、高分子材料を延伸した際における「高分子鎖の伸長」と高分子鎖の配向により発生する「ひずみ誘起結晶化」の度合いをそれぞれ定量的に追跡できる「デュアル蛍光レシオイメージング」の手法を開発しました。

 ひずみ誘起結晶化は、天然ゴムを引っ張った際にも観測される現象で、古くから研究されてきました。近年、天然ゴムだけでなく人工の高分子材料を強靭化するメカニズムとして、ひずみ誘起結晶化が最先端研究において再注目されています。また、強靭な高分子材料を設計するためには、外部からの力がどのようにして高分子鎖一本一本に加わるかということを理解することが重要です。これまでに本研究グループでは、約100pNの力に可逆応答する独自の蛍光Force Probeを開発し、これを高分子材料に組み込むことで、伸長した分子鎖の比率を定量的に解析する手法を報告してきました。今回、新たに本研究グループは、高分子鎖の伸長のみならず、続いて発生するひずみ誘起結晶化についても同時並列的に蛍光イメージングで追跡する手法を開発しました。この手法により、これまで単独の試験では解析が困難であった「高分子鎖の伸長」と「ひずみ誘起結晶化」の発生するタイミングのズレや、進行していく空間分布の違いを一度に定量解析することが可能になりました。今後はこの手法を活かして、ひずみ誘起結晶化に基づく強靭な材料の開発を加速させることが期待されます。

 本研究成果は、2023年12月5日に、国際学術誌「Journal of the American Chemical Society」にオンライン掲載されました。

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研究概要。高分子材料を延伸した際の「高分子鎖の伸長」と、続いて起こる「ひずみ誘起結晶化」の時空間分布を同時並列的に定量追跡できる「デュアル蛍光レシオイメージング」の手法を開発した。
研究者のコメント

「化学構造を操作することで、分子物性やバルク物性まで操作する研究に興味があります。有機分子を基盤とし、研究の入口と出口にはこだわらずに新しい方向を目指して研究を進めています。現在JSPSの若手研究者海外挑戦プログラムに支援いただき、オーストラリアの高分子化学の研究者Prof. Cyrille Boyerのもとに留学中です。そこでは化学構造を工夫した高分子を3Dプリントし、造形物における微視的な力のかかり方を調べる研究を行っています。」(須賀健介)

「須賀君は驚異的なバイタリティをもった鬼才です。どんなスキルでもすぐに吸収するので、私が地道に40歳くらいまでかけて得た多分野の知識やスキルを高速でほぼ習得し終わっています。しかも令和の研究者らしくプログラミングにも非常に強いので、機械学習やMD計算にも手を伸ばしています。最近出会った、若い分子生成AIの共同研究者とも楽しそうに飲んでいました。唯一、英会話だけが未習熟でしたが、コロナ禍が去り海外に行けるようになったので、世界的にも勢いがあるオーストラリアの若き高分子研究者のもとに送り出しました。今後、どんな傑物に育つのか楽しみです。」(齊藤尚平)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1021/jacs.3c09175

【書誌情報】
Kensuke Suga, Takuya Yamakado, Shohei Saito (2023). Dual Ratiometric Fluorescence Monitoring of Mechanical Polymer Chain Stretching and Subsequent Strain-Induced Crystallization. Journal of the American Chemical Society.