日本の大腸がん患者は術後1.1か月程度で仕事復帰―仕事復帰に向けたより良いコミュニケーションを目指して―

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 藤田悠介 医学研究科助教、肥田侯矢 同准教授、大越香江 同客員研究員、西﨑大輔 同医員(研究当時)、坂本享史 同診療助教、星野伸晃 同特定講師、小濵和貴 同教授、今井匠 特定研究員(研究当時)、田中司朗 同特定教授、松末亮 京都医療センター医師(研究当時)らの研究グループは、京都大学外科関連施設において大腸がん患者の術後就労状況を調査しました。大腸がんの治療成績の向上により、多くの患者が手術後に仕事復帰を含む日常生活へ戻ろうとするなか、日本の大腸がん患者の術後就労状況はほとんど把握されていませんでした。そこで、根治目的の手術を受ける大腸がん患者が、術後どれくらいの時期に仕事に復帰しているのかなどを明らかにし、仕事復帰を妨げる要因を探索することを目的として、この研究を行いました。

 本研究の結果、大腸がんの手術から復職までの期間の中央値は1.1か月、術後1年時点で仕事をしている患者の割合は79.2%と日本の大腸がん患者の術後就労状況は比較的良好でした。がんが進行していたり、人工肛門を作成したり、術後合併症が生じたりした場合には、復職の時期が遅くなっていました。また、人工肛門を作成した場合や、雇用条件が非正規や低収入の場合には、術後1年時点で仕事をしていない割合が高くなることがわかりました。今回の研究の結果は、大腸がん患者本人だけでなく、患者を支援する臨床医、産業医や看護師、家族や雇用主などにとって、仕事復帰に向けたコミュニケーションに役立つ情報です。今後さらにがん患者の就労に関するエビデンスが増え、それをもとに就労や治療に関する意思決定を支援していく取り組みが活性化することが期待されます。

 本研究成果は、2023年9月8日に、国際学術誌「Diseases of the Colon and Rectum」にオンライン掲載されました。

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研究者のコメント

「大腸がんで手術が必要な患者さんに、『術後どれくらいで仕事に戻れますか?』という質問を幾度となくされてきましたが、これまではその質問に対して答えられる情報はほとんどありませんでした。がん患者の就労は社会的な問題でもありますが、病気や治療方針に沿ったエビデンスは臨床現場からでないと創出が難しいと思います。今後このような視点の研究がより広がることを願います。」(藤田悠介)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1097/DCR.0000000000002840

【書誌情報】
Yusuke Fujita, Koya Hida, Takashi Sakamoto, Daisuke Nishizaki, Shiro Tanaka, Nobuaki Hoshino, Kae Okoshi, Ryo Matsusue, Takumi Imai, Kazutaka Obama (2023). Employment Status of Colorectal Cancer Patients After Surgery: A Multicenter Prospective Cohort Study in Japan. Diseases of the Colon & Rectum, 66(12), e1207-e1216.

メディア掲載情報

朝日新聞(10月4日夕刊 6面)に掲載されました。