大阪とシンガポールの院外心停止の患者の社会復帰率の違い―膜型人工肺を活用した蘇生戦略が潜在的な地域に与える影響―

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 近年、心停止患者の蘇生に体外式膜型人工肺(ECMO)を使用するECPR(Extracorporeal cardiopulmonary resuscitation)戦略が注目されています。しかしこのECPR戦略は地域によって実施状況が異なります。例えば、大阪では初期波形が電気ショック適応の心停止患者の30~60%にECPRが行われていますが、シンガポールでは1%未満です。岡田遥平 医学研究科研究員、石見拓 同教授、およびMarcus Ong シンガポール・デューク-NUS医科大学(Duke-NUS Medical School)教授らの共同研究グループは、この違いに着目し、2つの地域での初期波形が電気ショック適応の院外心停止患者の転帰に違いがあるかを検証しました。

 この研究では、大阪の院外心停止のデータベース(Osaka-CRITICAL study)から導出された機械学習モデルを、シンガポールのデータベース(SG-PAROS)に登録されている初期波形が電気ショック適応の院外心停止患者1,789人に適用しました。病院到着時に心停止から回復した患者では、観察された良好な神経学的転帰は大阪のデータに基づく予測と同程度でした(観察-予測比:0.905[95%信頼区間:0.784-1.036])。一方、病院到着時に心停止が継続していた患者の転帰は大阪のデータに基づく予測よりも低いことがわかりました(病院到着時に電気ショック適応の患者、観察-予測比:0.369[95%信頼区間:0.258-0.499]、ショック非適応な患者、観察-予測比:0.137[95%信頼区間:0.065-0.235])。

 本研究の結果は、ECPRを含む蘇生戦略が地域に与える影響を示唆しており、ECPR戦略を導入することでシンガポールにおける院外心停止患者の転帰のさらなる改善に役立つ可能性を示しています。

 本研究成果は、2023年9月12日に、国際学術誌「Critical Care」にオンライン掲載されました。

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研究者のコメント

「筆頭著者である岡田は、救急医として臨床の現場で院外心停止患者の蘇生に携わってきました。ECPRはその転帰改善の効果が期待される一方で、安定的に提供されるように、地域の救急医療システムの構築が肝要だと考えております。今回の研究では、ECPRの実施状況が異なる地域で、その治療対象となる患者の転帰が大きく異なることが示されました。この結果がECPRを含めた地域の救急医療システムの最適化の議論の材料になるのではないかと期待しています。」 (岡田遥平)

「本研究は、京都大学医学研究科と国立シンガポール大学Duke-NUS Medical Schoolの共同研究であります。国際的に標準化された心停止レジストリ-を有する大阪(日本)とシンガポールの大規模データを活用し、両地域の病院前救急医療の特徴を生かし、院外心停止という世界共通の課題に対する治療戦略を検討した意義深い研究です。筆頭著者の岡田氏をはじめ、両国の若手研究者が研究の企画段階からリードてきました。本研究を通じて両大学の研究ネットワークがさらに強固なものとなり、さらなる研究、両国、世界の病院前救急医療体制の改善へと発展していくことを期待しております。」(石見拓)

書誌情報

【DOI】

https://doi.org/10.1186/s13054-023-04636-x

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/285160

【書誌情報】
Yohei Okada, Nur Shahidah, Yih Yng Ng, Michael Y. C. Chia, Han Nee Gan, Benjamin S. H. Leong, Desmond R. Mao, Wei Ming Ng, Taro Irisawa, Tomoki Yamada, Tetsuro Nishimura, Takeyuki Kiguchi, Masafumi Kishimoto, Tasuku Matsuyama, Norihiro Nishioka, Kosuke Kiyohara, Tetsuhisa Kitamura, Taku Iwami, Marcus Eng Hock Ong (2023). Outcome assessment for out-of-hospital cardiac arrest patients in Singapore and Japan with initial shockable rhythm. Critical Care, 27:351.