スピン自由度を持つ超伝導の実験的同定-スピン三重項超伝導多重相における新現象-

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 金城克樹 理学研究科博士課程学生(現:東北大学)、藤林裕己 同修士課程学生(研究当時)、松村拓輝 同修士課程学生、堀文哉 同博士課程学生、北川俊作 同助教、石田憲二 同教授の研究グループは、東北大学、九州大学、フランス原子力庁との共同研究から、スピン三重項超伝導体における超伝導スピンの回転を微視的に世界で初めて明らかにしました。

 超伝導状態は、2つの電子がペアを組むクーパー対と呼ばれる量子力学的な波動状態として理解されます。電子にはスピンと軌道の自由度があるので、クーパー対も同様にスピンと軌道の自由度を持ちますが、今まで発見されたほとんどの超伝導体はスピンおよび軌道の自由度をもたない状態でした。一方で、スピンまたは軌道の自由度をもつ超伝導状態を考えると、わずかな外部パラメータの変化によってさまざまな超伝導状態となる超伝導多重相が期待でき、理論的研究がなされてきました。しかし候補となる超伝導体の観測例は非常に少なく、また超伝導転移温度の低さなどから超伝導多重相に由来する現象の探索は非常に困難でした。

 本研究グループは、超伝導体UTe2の純良単結晶において超伝導多重相に由来する特徴的な超伝導スピンの回転を、複合極限環境における核磁気共鳴測定法(NMR)を用いることで明らかにしました。今回の結果はこれまで実験的なアプローチが不足していた超伝導多重相において、UTe2が理想的な研究舞台であることを示すとともに、予想しなかった新奇な超伝導状態を示すことを明らかにしました。

 本研究成果は、2023年7月28日に、国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。

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各相での超伝導スピンの状態。超伝導2相と超伝導3相では超伝導スピンの向きが異なる。
研究者のコメント

「スピン三重項超伝導は非常に長い間研究されていたにもかかわらず、その実現確率の低さや研究難易度の高さから超伝導多重相図の実態がつかめずにいました。今回のUTe2の研究からその振る舞いを解明しました。このことによって、理論的なアプローチ、より高度な実験的アプローチを含め、その理解が一層進むことが期待されます。」(金城克樹 )

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1126/sciadv.adg2736

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/284529

【書誌情報】
Katsuki Kinjo, Hiroki Fujibayashi, Hiroki Matsumura, Fumiya Hori, Shunsaku Kitagawa, Kenji Ishida, Yo Tokunaga, Hironori Sakai, Shinsaku Kambe, Ai Nakamura, Yusei Shimizu, Yoshiya Homma, Dexin Li, Fuminori Honda, Dai Aoki (2023). Superconducting spin reorientation in spin-triplet multiple superconducting phases of UTe₂. Science Advances, 9(30):eadg2736.