軽運動の前頭前野機能向上効果は瞳に映る

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 ヨガやウォーキングのような非常に軽い運動でも、運動をすると短時間で気分が好転し、脳の前頭前野が関わる実行機能(目標に向かって行動や意識を制御する能力)が高まることが明らかになってきました。しかし、運動中にヒトの脳内でどのような活動が起き、実行機能が向上されるのかは、技術的な限界もありよく分かっていませんでした。

 「目は脳の一部」といわれるように、目は人の精神状態を良く反映します。近年は、瞳(瞳孔)の変化(拡大・縮小)が、脳の覚醒をもたらす脳内ノルアドレナリン神経を中心とした神経活動と密接に関係するとして注目を集めています。このため、桑水隆多 文学研究科日本学術振興会特別研究員、征矢英昭 筑波大学教授らの研究チームは、軽運動中の瞳孔の変化から、運動後に起こる前頭前野に関連した実行機能の向上を予測できるとする仮説を立てました。瞳孔径の変化であれば、全身性の有酸素運動中も非接触・非侵襲の測定が可能で、覚醒神経活動の指標として使うことができます。

 本研究では、この仮説を検証するため、健常な若齢成人に10分間の軽い運動を行ってもらいました。その結果、軽い運動中に顕著な瞳孔の拡大が見られました。そして、その拡大の大きさから、運動後の実行機能の向上を予測できることが明らかとなりました。また、機能的近赤外分光分析法(fNIRS)を用いて脳の活動を調べたところ、実行機能に関わる前頭前野左背外側部の活動性が、軽い運動後に高まっていることが示されました。

 この結果は、軽い運動が前頭前野の実行機能を高める神経基盤として、瞳孔と連動する覚醒神経活動の活性化があることを示唆しています。瞳孔径は、運動による脳機能の向上効果を占う新たなバイオマーカーとして活用できると期待されます。

 本研究成果は、2023年6月21日に、国際学術誌「NeuroImage」にオンライン掲載されました。

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実験プロトコル
実験参加者は、運動条件・安静条件の二条件について、それぞれ別の日に参加した。運動条件は最高酸素摂取水準の30%の自転車漕ぎ運動を10分間行い、安静条件は自転車の上で座位安静を維持した。各条件とも前後にストループ課題を行った。ストループ課題中には、機能的近赤外分光分析法(fNIRS)を用い、前頭前野外側部の酸素化ヘモグロビン動態をモニターした。
研究者のコメント

「軽い運動の脳への効果を明らかにするべく、日進月歩で脳機構研究が進んでいる心の窓、瞳孔を観てみました。初めて瞳孔径の生データを観た時には、その安静から運動への顕著な動態変化に驚き、ヒトが運動している時の心・脳の動きの一部をその窓から覗かせてもらっているかもしれないと期待を膨らませました。不明点が多く残されているため一歩ずつ慎重に詳細を詰めていくとともに、子ども期や高齢期などでも今後検証していきたいです。」(桑水隆多)

研究者情報
研究者名
桑水 隆多
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.neuroimage.2023.120244

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/284138

【書誌情報】
Ryuta Kuwamizu, Yudai Yamazaki, Naoki Aoike, Taichi Hiraga, Toshiaki Hata, Michael A. Yassa, Hideaki Soya (2023). Pupil dynamics during very light exercise predict benefits to prefrontal cognition. NeuroImage, 277:120244.