マイクロRNA-33bの阻害は非アルコール性脂肪肝炎を改善する―核酸医薬による治療応用へ―

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 肥満の増加に伴い、脂肪肝を呈する非アルコール性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease: NAFLD)の患者は全世界で増加を示しています。NAFLDの一部が、炎症と線維化を主体とする非アルコール性肝炎(nonalcoholic steatohepatitis: NASH)に進行します。我が国でも生活の欧米化に伴いその患者数は増加し、NAFLDの有病率は9-30%、NASHはその1割程度と推定されます。 NASHは肝硬変や肝癌の発症につながり、心血管イベント発症との関連も指摘されています。しかし、どのような因子がNASH形成に寄与するか不明な部分も多く、現状では、食事・運動療法以外に有効な治療法はありません。

 尾野亘 医学研究科教授、堀江貴裕 同助教はマイクロRNA(miRNA; miR)の機能解析の過程で、肝細胞のmiR-33bがNASH形成に重要な役割を果たすことを見出しました。そこで、本研究において、miR-33bを特異的に抑制する合成核酸を投与することにより、マウスNASH形成モデルの炎症・線維化・肝障害を抑制できることを示し、本核酸医薬がNASH治療に有用であることを明らかとしました。今後、ヒトNASHの治療応用に向けた開発を続ける予定です。

 本研究成果は、2023年6月1日に、国際学術誌「Life Science Alliance」にオンライン掲載されました。

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肝細胞、肝星細胞にはmiR-33bの発現がmiR-33aに比べて多く、anti-miR-33bの投与によって、肝細胞、肝星細胞のABCA1の発現が上昇し、これらの細胞内遊離コレステロールや肝臓のコレステロールクリスタルの低下を介して、肝臓の炎症反応や線維化が低下した。従って、NASH発症には肝細胞、肝星細胞のmiR-33bが重要であり、miR-33bの抑制は新規NASH治療となり得る。
研究者のコメント

「NAFLD/NASHに対する治療は食事・運動療法以外の特異的で有効な治療法は確立されていない。従って、NAFLD/NASHに対する新規治療法の確立は非常に重要である。さらに核酸医薬は近年、他疾患で新規治療薬として保険適応されつつある分野でもあり、ヒトへの応用も近いと考える。」

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.26508/lsa.202301902

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/283316

【書誌情報】
Sawa Miyagawa, Takahiro Horie, Tomohiro Nishino, Satoshi Koyama, Toshimitsu Watanabe, Osamu Baba, Tomohiro Yamasaki, Naoya Sowa, Chiharu Otani, Kazuki Matsushita, Hidenori Kojima, Masahiro Kimura, Yasuhiro Nakashima, Satoshi Obika, Yuuya Kasahara, Jun Kotera, Kozo Oka, Ryo Fujita, Takashi Sasaki, Akihiro Takemiya, Koji Hasegawa, Takeshi Kimura, Koh Ono (2023). Inhibition of microRNA-33b in humanized mice ameliorates nonalcoholic steatohepatitis. Life Science Alliance, 6(8):e202301902.

メディア掲載情報

朝日新聞(8月21日夕刊 3面)に掲載されました。