交雑帯は進化の実験場―ウノアシ種群の種分化―

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 九州以北に生息する海産巻貝類のウノアシと沖縄以南に生息しているリュウキュウウノアシはもともと地理的分布域の異なる亜種と考えられていましたが、Faith Jessica Paran 理学研究科博士課程学生、中野智之 フィールド科学教育研究センター講師、朝倉彰 同教授、池尾一穂 国立遺伝学研究所准教授らの共同研究グループは、分子系統解析の結果それぞれ独立した種である事を明らかにしました。さらに網羅的なサンプリングによる調査の結果、これら2種は沖縄と奄美の一部の地域で同所的に生息していることを発見し、ゲノムワイドな解析の結果、その地域で交雑していることを発見しました。陸上の生物に比べて海の生物の分布域の境界は少し曖昧ですが、沖縄から奄美にかけての地域がウノアシ種群の交雑帯であると言えます。交雑は様々な進化の可能性を秘めており、2種に分かれた種が再度1種にかけ戻されたり、交雑した集団が第3番目の種へ種分化する場合もあり、今後の様々な進化の可能性を秘めています。海産巻貝類における交雑例は非常に珍しく、ウノアシ種群の進化の研究は海洋生物の種分化における新たな知見を提供できると思われます。

 本研究成果は、2023年5月11日に、国際学術誌「Biological journal of the Linnean Society」にオンライン掲載されました。

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研究者のコメント

「貝の研究者の一部では、『巻いてないと貝じゃない』と言われることもあり、あまり興味を持たれないカサガイですが、そのカサガイの中から海産巻貝類では非常に珍しい雑種形成を発見しました。カサガイの種分化の研究から海洋生物全般の種分化に新知見を提供できればとても嬉しいです!次の学会では駄貝(平凡な貝)と呼ばれたカサガイの歴史も塗り替えたいと思います!」(中野智之)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1093/biolinnean/blad019

【書誌情報】
Faith Jessica Paran, Kazuho Ikeo, Akira Asakura, Tomoyuki Nakano (2023). Species divergence despite minimal morphological differentiation and habitat overlap in the Patelloida saccharina (Patellogastropoda: Lottiidae) species complex. Biological Journal of the Linnean Society,
139(2), 173–191.

メディア掲載情報

読売新聞(6月28日夕刊 8面)に掲載されました。