血液脳関門開放術による遺伝子治療法の開発―身体を傷つけない脳疾患の治療を目指して―

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 これまでは脳疾患の治療を行う際に、開頭手術により直接、脳の病変部位に治療用の薬剤等を注入したり、特定の脳領域に電極を刺入して電気刺激や電気凝固を施したりしていました。

 今回、高田昌彦 ヒト行動進化研究センター特任教授と井上謙一 同助教は、Jose Obeso スペイン・神経科学統合センター(HM CINAC)教授の研究グループと連携し、新規に開発したウイルスベクターと経頭蓋集束超音波照射を利用したベクターデリバリー手法により、血液脳関門を物理的かつ一時的に開放して、血管内投与したベクターを脳の目標部位に局所的に導入し、外来遺伝子を発現させることにサルにおいて成功しました。

 このことは、非侵襲的に特定の脳領域に選択的な遺伝子導入を可能にする画期的な手法が確立されたことを示しており、今後、この技術が実用的なレベルにまで発展することによって、遺伝子治療技術を飛躍的に進展させ、特にパーキンソン病などの神経疾患に対する安全な治療法の開発に大きく寄与することが期待されます。

 本研究成果は、2023年4月20日に、国際学術誌「Science Advances」にオンライン掲載されました。

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研究者のコメント

「ウイルスベクターの開発を除いて、本研究プロジェクトに関する主要な実験は経頭蓋集束超音波照射装置が完備されているスペインの神経科学統合センターで実施していたため、COVID-19によって日本とスペインの往来が困難になり、2年間以上にわたって研究を中断せざるを得なくなりましたが、ようやくここまで到達できました。今後は近い将来の臨床応用を目指して、この技術を実用的なレベルに発展させ、パーキンソン病などの神経疾患に対する安全な遺伝子治療法の確立に貢献したいです。」

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1126/sciadv.adf4888

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/281763

【書誌情報】
Javier Blesa, José A. Pineda-Pardo, Ken-ichi Inoue, Carmen Gasca-Salas, Tiziano Balzano, Natalia López-González Del Rey, Alejandro Reinares-Sebastián, Noelia Esteban-García, Rafael Rodríguez-Rojas, Raquel Márquez, María Ciorraga, Marta del Álamo, Lina García-Cañamaque, Santiago Ruiz de Aguiar, Itay Rachmilevitch, Inés Trigo-Damas, Masahiko Takada, José A. Obeso (2023). BBB opening with focused ultrasound in nonhuman primates and Parkinson’s disease patients: Targeted AAV vector delivery and PET imaging. Science Advances, 9(16):eadf4888.

メディア掲載情報

日刊工業新聞(5月11日 25面)に掲載されました。