内殻電子が励起する時計遷移の初観測に成功―新奇な光格子時計を用いた超高感度な新物理探索へ―

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 現在の素粒子物理学では、標準模型という理論モデルで宇宙の数多くの現象を説明・記述できることが知られています。一方で宇宙の全エネルギーのうち約95%が標準模型では説明できない(暗黒物質・暗黒エネルギー問題)などの未解決問題を抱えているため、標準模型を超える新物理の探索実験が世界各国で精力的に進められています。その一つに、光格子時計と呼ばれる中性原子の精密分光技術を用いた実験があります。

 石山泰樹 理学研究科博士課程学生、小野滉貴 同特定助教、高野哲至 同特定准教授、砂賀彩光 同特定研究員、高橋義朗 同教授らの研究グループは、イッテルビウム原子の内殻電子が励起される時計遷移(波長431nm)に注目し、世界初となる直接観測に成功しました。さらに、将来の光格子時計構築の鍵となる魔法波長の探索や励起状態の寿命測定なども行いました。この遷移は、内殻軌道の電子が励起するという特長により、超軽量暗黒物質などいくつかの新物理現象に高い感度を持つことが理論的に予測されているため、光格子時計として活用することで超高感度な新物理探索実験が可能になると期待されます。

 本研究成果は、2023年4月15日に、国際学術誌「Physical Review Letters」にオンライン掲載されました。

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本研究の概要図。(a)イッテルビウム原子の431nm時計遷移。特定の周波数の光を照射すると、電子が内殻4f軌道からより高エネルギーな外殻5d軌道に励起される。(b)本研究で達成した世界初の431nm遷移分光。中心での基底状態原子数の減少は、その分だけ原子が励起状態に励起されたことを意味している。現状のスペクトル線幅約30kHzは原理限界である自然幅約0.8mHzと比べると太く、その改善が今後の課題である。
研究者のコメント

「近年、量子コンピュータに代表される量子技術が注目を集めてます。本研究は、超高感度な『新物理探索のための量子センサー』開発に向けた第一歩に位置づけられます。近年盛んに研究が行われている競争の激しい分野ですが、世界に先駆けてこのような成果を発表できたことを嬉しく思います。」(石山泰樹)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.130.153402

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/281694

【書誌情報】
Taiki Ishiyama, Koki Ono, Tetsushi Takano, Ayaki Sunaga, Yoshiro Takahashi (2023). Observation of an Inner-Shell Orbital Clock Transition in Neutral Ytterbium Atoms. Physical Review Letters, 130(15):153402 .