樽家篤史 基礎物理学研究所准教授と奥村哲平 中央研究院天文及び天体物理研究所教授は、120万個にのぼる銀河の観測データを用いて、銀河の向きを系統的に調べ、数千万光年以上離れた銀河の向きが、重力を介してお互いそろっている証拠をつきとめました。
研究では、宇宙の3次元地図作成に使われた銀河の観測データをもとに、銀河の位置と向きの情報を使って、遠く離れた銀河の向きがお互いどれだけそろっているかを測定しました。その結果、数千万光年以上も離れた銀河どうしの向きがよくそろっていることを発見しました。測定結果は、宇宙に広がるダークマター分布が重力を通じてお互いの銀河に作用したと考えると、うまく説明できます。研究ではさらに、重力によって銀河分布が徐々に密集していく速度の測定にも成功し、遠方宇宙でも一般相対性理論と矛盾がないことを明らかにしました。
今回の成果は、銀河の向きを使って、宇宙に関する新しい検証手段を確立できたことがポイントです。これまでは、分光観測された銀河の位置情報だけから検証が行われて来ましたが、銀河の向きの情報を組み合わせることで、より強力な手段を切り拓くことができました。研究ではアーカイブデータを用いましたが、現在進行中の銀河観測プロジェクト、特に日本を中心としたすばる望遠鏡を用いた観測プロジェクトへ応用することで、さらに高い精度の測定が可能で、革新的な成果につながると期待されます。
本研究成果は、2023年3月13日に、国際学術誌「The Astrophysical Journal Letters」にオンライン掲載されました。
「銀河の形状を用いて宇宙を支配する物理法則が調べられるという可能性は、これまで理論的な立場から指摘されてきました。今回の研究でそれを初めて観測的に示すことができ、たいへん嬉しく思っています。今後、日本が台湾や他の国々と共に進めている国際共同研究であるすばる主焦点多天体分光器Prime Focus Spectrograph (PFS)など大規模な銀河地図に適用して、より詳細な解析を進めていきたいと考えています。」(奥村哲平)
「数千万光年も離れた銀河の向きが関係づいているという測定結果は、日常生活から考えればすごいことです。しかも、その結果が、一般相対性理論に基づくモデル計算とぴたりと一致した点は、もっと驚きです。もちろん、一般相対性理論に何らかのほころびが潜んでいるかもしれないので、今後の精査は必要ですが、今回の成果で新しい手法を開拓できたことは大きな収穫でした。今後は、現在進行中の観測プロジェクトなどを通じて、こうした研究を押し進めることで、宇宙のさまざまな謎の解明につなげていきたいと考えています。」(樽家篤史)
【DOI】
https://doi.org/10.3847/2041-8213/acbf48
【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/281622
【書誌情報】
Teppei Okumura, Atsushi Taruya (2023). First Constraints on Growth Rate from Redshift-space Ellipticity Correlations of SDSS Galaxies at 0.16 < z < 0.70. The Astrophysical Journal Letters, 945(2):L30.