ATM遺伝子変異による乳癌発症機構を解明-HBOC症候群の乳腺特異的発癌機構の解明に貢献-

ターゲット
公開日

 乳癌の5-10%は遺伝性(HBOC症候群)で、変異している遺伝子の代表はBRCA1、BRCA2です。次に頻度の高いのはATM遺伝子です。これらの遺伝子の変異が、なぜ特定臓器(乳腺)の発癌を上昇させるのか、その分子機構は不明でした。

 山田真太郎 医学研究科助教、Rifat Najnin 同大学院生、武田俊一 深圳大学教授、Scott Keeney NYメモリアルスローンケタリングがん研究病院ラボヘッドらの共同研究グループは、ATMキナーゼ欠損がエストロゲン(E2)の細胞増殖刺激効果を大きく上昇させることを示し、さらに、その分子機構を解明しました。具体的には、E2刺激時に、c-MYC発癌遺伝子エンハンサーDNA配列にゲノム切断が発生することを発見しました。ATMは、この切断の再結合を促進します。ATMが欠損し再結合が遅れると、E2曝露によるc-MYC転写因子の発現誘導がさらに亢進することを、ヒト乳癌細胞とマウス乳腺で確認しました。この亢進がATM欠損による乳腺特異的発癌の分子機構です。

 外部刺激に応答して遺伝子発現が誘導されることを、early transcriptional response(早期転写応答)と呼びます。早期転写応答時に、早期転写応答に関与するエンハンサーにも切断が発生することは、新発見です。今後は、BRCA1、BRCA2がATMと同様に、この切断の再結合促進をするかを調べ、HBOC症候群の、乳腺特異的発癌機構を解明します。

 本研究成果は、2022年12月30日に、国際学術誌「Cell Reports」にオンライン掲載されました。

文章を入れてください
ATMが欠損すると、c-MYC発癌遺伝子の、エストロゲンへの早期転写応答が異常に高まる。
研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2022.111909

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/279248

【書誌情報】
Rifat Ara Najnin, Md Rasel Al Mahmud, Md Maminur Rahman, Shunichi Takeda, Hiroyuki Sasanuma, Hisashi Tanaka, Yasuhiro Murakawa, Naoto Shimizu, Salma Akter, Masatoshi Takagi, Takuro Sunada, Shusuke Akamatsu, Gang He, Junji Itou, Masakazu Toi, Mary Miyaji, Kimiko M. Tsutsui, Scott Keeney, Shintaro Yamada (2023). ATM suppresses c-Myc overexpression in the mammary epithelium in response to estrogen. Cell Reports, 42(1):111909.