遺伝病の原因タンパク質が小胞体ストレスを引き起こすメカニズムの解明―神経変性疾患の新規治療戦略の確立に向けて―

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 森和俊 理学研究科教授、齊藤峻介 同教務補佐員らの研究グループは、運動神経変性疾患の原因となるタンパク質が、小胞体ストレスと細胞死を誘導する分子メカニズムを明らかにしました。

 小胞体に存在する糖タンパク質であるSeipinに遺伝性の変異が生じ、糖鎖を欠くSeipinが発現すると、運動神経変性疾患であるSeipinopathyを発症させることが報告されていますが、その分子メカニズムは不明でした。本研究グループは、無糖鎖型のSeipinが小胞体で凝集体を形成し、その中に巻き込むことでカルシウムイオンポンプ*1であるSERCA2bを不活性化して小胞体内のカルシウムイオン濃度を減少させ、その結果として小胞体ストレスと細胞死が誘導されることを発見しました。

 小胞体ストレスと神経変性疾患発症の因果関係では意見が分かれるところですが、本研究成果はSeipinopathyを含む多くの神経変性疾患の発症・進行機構の理解、および新規治療法の確立につながると期待されます。

 本成果は、2022年11月29日にアメリカの国際学術誌「eLife」にオンライン掲載されました。

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研究者のコメント

 小胞体内に構造異常タンパク質が蓄積する小胞体ストレス状態が原因で、神経変性疾患が発症する可能性があります。今回の研究で、運動神経変性疾患の原因タンパク質の1つが小胞体内カルシウムイオン濃度を減少させ、小胞体ストレスと細胞死を誘導することを突き止めることができました。今後、本研究結果を突破口とする形で解析を進め、最終的に小胞体ストレスを標的とした新規治療法の創出に結びつけることを目指しております。(森 和俊)

書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.7554/eLife.74805

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/277647

【書誌情報】
Shunsuke Saito, Tokiro Ishikawa, Satoshi Ninagawa, Tetsuya Okada, and Kazutoshi Mori (2022). A motor neuron disease-associated mutation produces non-glycosylated Seipin that induces ER stress and apoptosis by inactivating SERCA2b. eLife, 11:e74805.

メディア掲載情報

京都新聞(11月30日 29面)および日刊工業新聞(12月1日 23面)に掲載されました。