ティコの超新星残骸で増光する構造を発見―加熱過程をリアルタイムで捉える―

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 松田真宗 理学研究科博士課程学生、内田裕之 同助教らの研究チームは、今年で爆発から450周年を迎える「ティコの超新星残骸」をチャンドラX線天文衛星で観測した結果、わずか数年で急速に増光・加熱する特異な構造を発見しました。

 超新星爆発で生じた爆風(衝撃波)は、宇宙空間を膨張しながら周囲の星間ガスを加熱していきます。しかしながら、加熱の様子をリアルタイムで捉えることは難しく、銀河系内で直接の観測例はこれまでありませんでした。本研究チームは、ティコの超新星残骸が膨張する年単位の「動画」を解析することで、星間ガスが加熱されていく決定的瞬間を世界で初めて捉えることに成功しました。今回の研究により、星間ガスの温度が数年のうちに1000万度近くまで急上昇し、X線を放出して明るく輝いていく様子が明らかになりました。この温度上昇から、この領域では、電子や陽子の衝突によるエネルギーの授受を経て加熱していることを観測的に実証しました。さらに詳細な数値計算と比較した結果、この領域では、電子や陽子が、衝突せずに電磁場を介してエネルギー交換を行う、「無衝突過程」による加熱も示唆されました。

 本研究成果は、2022年11月25日に国際学術誌「The Astrophysical Journal」にオンライン掲載されました。

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チャンドラ衛星で撮影されたティコの超新星残骸のX線画像。下のパネルは赤い四角の領域の拡大図になっています。緑の楕円で囲まれた構造が年々明るくなっていることがわかります。

研究者のコメント

「ティコの超新星残骸は既に爆発から450年経過しています。そのような天体が、今なお数年スケールの変化を見せていることに超新星爆発のエネルギー現象の莫大さを実感するとともに、そのような変化を発見できたことに感激しています。」(松田真宗)

「ティコ・ブラーエは、この超新星の観測から、宇宙が不変であるという古来よりの概念を打ち破りました。同じ天体から、450年後の私たちが、不変どころか激動する宇宙の姿を目の当たりにできたことに感慨を覚えます。」(内田裕之)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.3847/1538-4357/ac94cf

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/277551

【書誌情報】
Masamune Matsuda, Hiroyuki Uchida, Takaaki Tanaka, Hiroya Yamaguchi, Takeshi Go Tsuru (2022). Discovery of Year-scale Time Variability from Thermal X-Ray Emission in Tycho’s Supernova Remnant. The Astrophysical Journal, 940(2):105.