老化T細胞が自己免疫病や慢性炎症疾患を引き起こすメカニズムを解明―老化関連疾患克服への新しいアプローチー

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 ヒトは加齢にともなって、がん、糖尿病、動脈硬化症、慢性腎不全などの慢性炎症性疾患、あるいはリウマチ性自己免疫病など多様な疾患を発症しやすくなります。これらの「老化関連疾患」の発症には、「免疫老化」といわれる加齢にともなう特徴的な免疫系機能変化が基礎にあると考えられていますが、そのメカニズムの全容は不明です。マウスでは、加齢に伴って「老化関連T細胞(SA-T細胞)」と呼ばれる若齢個体には存在しない特異なT細胞が増加し蓄積してくることがわかっています。

 今回、福島祐二 医学研究科特定助教、服部雅一 同特定教授らの研究グループは、SA-T細胞が慢性炎症や自己抗体の産生を引き起こすメカニズムを解明し、それを人為的に阻害することにより免疫老化や自己免疫疾患を抑制できることを動物モデルで明らかにしました。

 SA-T細胞は、正常T細胞と異なりT細胞抗原受容体(TCR)を介する増殖・活性化反応を示すことができませんが、他方で大量の炎症性因子を分泌しうるという老化細胞の特徴をもっています。遺伝子欠損マウスを使った実験から、加齢に伴うSA-T細胞の増加には、SA-T細胞に発現されるCD153分子とごく少数の自己反応性B細胞に発現されるCD30分子とのユニークな機能的相互作用が関与していることがわかりました。CD153とCD30の相互作用によって、SA-T細胞はTCRを介する増殖・活性化反応を回復するとともに、自己反応性B細胞は増殖分化して自己抗体を産生するようになります。つまりCD153とCD30の双方向性シグナルによって、SA-T細胞と自己反応性B細胞は相互に刺激し合い活性化されて増殖してくることがわかりました。実際にCD153・CD30相互作用を遮断する抗体(17D)を作出してマウスに投与したところ、予想通り加齢に伴うSA-T細胞の増加とそれにともなう自己抗体や炎症因子の増加はともに有意に抑制されることが示されました。全身性エリテマトーデス(SLE)という自己免疫病(膠原病)を発症し腎不全により死亡するモデルマウスでは、早期からは著明なSA-T細胞の増加が認められることがわかっています。そこで17D抗体をこのマウスに投与すると、SLE病態の強い発症予防および発症後の治療効果が認められ、明らかな生存率の改善効果が得られることもわかりました。

 近年の研究によって、SA-T細胞は健常個体の加齢によって増加してくるのみならず、高脂肪食による糖尿病、種々の要因による慢性腎不全など、多様な組織ストレスに伴う慢性炎症性疾患において著明に増加し、その病態発生に関与していることが示唆されてきています。今回の研究成果によって、SA-T細胞増加に代表される免疫老化が感染抵抗性などの減弱のみならず、多様な慢性炎症性疾患やリウマチ性疾患の発症にも重要な役割を果たすことが明らかになりました。今後、ヒトのSA-T細胞を標的とした創薬研究によって、進行する高齢化社会においてますます有病率が増加しつつある多様な老化関連疾患の抑制に貢献することが期待されます。

 本研究成果は、2022年9月20日に、国際学術誌「Cell Reports」にオンライン掲載されました。

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図の説明:(A)通常のT細胞は専門的抗原提示細胞によって提示された病原体などの外来抗原を、T細胞受容体(TCR)によって認識して増殖・活性化し、抗体産生やその他の反応による防御応答を示す。(B)他方、加齢に伴って増加し細胞老化の特徴を示すSA-T細胞は、外来抗原にほとんど反応を示さない。(C)しかしSA-T細胞は、CD153とCD30の結合によって少数の自己反応性B細胞と相互作用する。CD153はTCRに会合することによってSA-T細胞のTCR反応性を回復させ、その増殖および炎症性因子分泌を誘導する。同時にCD30からの刺激によって、自己反応性B細胞は活性化されて増殖するとともに自己抗体を産生する。この双方向性相互作用が、慢性炎症性反応やリウマチ性疾患など多様な老化関連疾患発症の基礎的要因となると考えられる。(D)抗体投与によるCD153とCD30の結合遮断によって、SA-T細胞の増殖・活性化および自己抗体産生は抑制される。

研究者のコメント

「SA-T細胞は自己免疫病を始めとする様々な加齢関連疾患の発症に関与することが明らかになっています。しかしこのT細胞がどのようにして生体内で増殖しているのかは⻑い間、謎でした。今回の研究によりSA-T細胞が発現するCD153がキー分子として機能し、そのレセプターであるCD30を発現するB細胞と相互作用することにより、お互いの増殖を促進し自己免疫病等の疾患を引き起こしていることが明らかになりました。その相互作用を抗体により阻害すると、マウスモデルでは難治性自己免疫病である全身性エリトマトーデス(SLE)の発症をほぼ完全に抑制できることから、新しいSLE治療薬となることが期待されます。」(服部雅一)

研究者情報
書誌情報

【DOI】
https://doi.org/10.1016/j.celrep.2022.111373

【KURENAIアクセスURL】
http://hdl.handle.net/2433/276365

【書誌情報】
Yuji Fukushima, Keiko Sakamoto, Michiyuki Matsuda, Yasunobu Yoshikai, Hideo Yagita, Daisuke Kitamura, Misaki Chihara, Nagahiro Minato, Masakazu Hattori (2022). cis interaction of CD153 with TCR/CD3 is crucial for the pathogenic activation of senescence-associated T cells. Cell Reports, 40(12):111373.

メディア掲載情報

京都新聞(9月21日 29面)に掲載されました。